サイシュピール @saispiel

ブース概要
合同サークルサイシュピールです。静岡を拠点とする、 スタジオくるくる(@StudioKurukuru) 輪骨舎(@lancelot_szok) Megaromatic game(@Megalomaniac_G)の3サークルで結成しています。
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- デザイナーズノート『テキサスの流儀』
- この記事は【ゲームマーケット2025春】に発売される新作、『テキサスの流儀』のデザイナーズノートだ。ゲームの簡単な紹介はこちらの記事で行っている。https://gamemarket.jp/blog/192413ゲーム内容を知っていた方がこの記事も楽しく読めると思うので、出来ればこちらを先に読んでおくことをお勧めする。 この記事は【①テキサスホールデムのボードゲーム的解釈】【②the Gang(ギャングポーカー)についての考察】【③ゲームシステムとその意図】という3部で構成されている。①と②に関しては『テキサスの流儀』と直接関係あるわけではないので、ゲームに興味が無い方も読んでくれると嬉しい。勿論最後まで読んでくれたら更に嬉しい。 さあ前置きはそのくらいにして早速本題に入ろう。 【①テキサスホールデムのボードゲーム的解釈】今作の元ネタは明確に「テキサスホールデム」だ。なのでゲームの解説に入る前に、「テキサスホールデム」というゲームの分析から始めることにする。 まず初めに言っておきたいのは「テキサスホールデム」というゲームが、面白い遊びであるのは間違いないということである。運と実力が程よいバランスで調和されたゲーム性、初心者にはとっつきにくさもあるが、理解している人同士で遊べばとても面白いゲームである。これは単純にプレイヤー数が多くいることからも証明されていると言って問題ないだろう。立場としては「麻雀」が近い。「麻雀」に対して「クソゲー」だという人はいるだろうが、やはりあれだけの人を虜にする魅力があるゲームではあるのだ。 ただこういった「テキサスホールデム」「麻雀」、あと加えるなら「TCG」などのプレイヤーが多くて人気のあるゲームの要素を、そのままボードゲームに落とし込もうとするの結構難しい。何故なら「ボードゲーム」といった遊びと、「テキサスホールデム」などの遊びは、その性質がかなり異なるからだ。 「テキサスホールデム」「麻雀」「TCG」といった遊びの特徴は、プレイヤーはそのゲームを遊ぼうとして集まるということにある。だからプレイヤーは(初心者向けのイベントを除いて)基本的に事前にルールを学んだうえで来る。「互いにルールを把握している」という前提があるからこそ、さらにそこから一歩進んだ駆け引きを楽しむ余地が生まれるのだ。 対して「ボードゲーム」という遊びを楽しむ人は、「同卓者と楽しい時間を過ごせること」を求めている。そしてそれが達成できるならどんなゲームであっても構わないのである。基本的に「ボードゲーマー」は同じゲームを深く掘り下げて遊ぶというよりは、色んなゲームを遊ぶという人が多い。必然的に多くのプレイヤーは、まずルールを知ることからゲームを遊ぶことになる。プレイヤーは「そのゲームに興味が無い」ところから始まると言ってもよい。 この遊びの性質の違いは、言ってしまえばそれだけだが、とても重要だと自分は考えている。それがよく出ている例が「TCG」だ。「TCG」は全てのプレイヤーが基本的なルールやそれまで出たカードをある程度把握しているという前提のもとにカードの効果をデザインすることが出来る。だからこそ複雑なカード効果やコンボ、それを巡る駆け引きが許容される。しかし似たようなことをボードゲームでやろうとするとどうだろうか?プレイヤーは一からルールを覚える必要があり、そしてそれを他のプレイヤーにも覚えてもらう必要がある。ほとんどの場合、作者が想定する駆け引きを楽しんで貰うところまでいくことはあまり無いだろう。何故ならそこまでのハードルは高く、何よりプレイヤーはそのゲームに元々興味が無く、代わりに遊ぶゲームはいくらでもあるからだ。 同人ボードゲームで「TCG」や「麻雀」ライクのゲームがあまりパッとしないのが多いのは(作者の経験値もあるが)、この遊びの性質の違いを軽視しているケースが多いように思う。 勿論今回題材に取り上げている「テキサスホールデム」もそういった性質の強いゲームである。そのためまずは「テキサスホールデム」というゲームを「ボードゲーム」という目線で捉えた時に、どのような点が課題になるのかを述べていきたい。 【①-①:ゲーム時間が長い&不定である】テキサスホールデムには「リングゲーム」と「トーナメント」という大きく2つの遊び方がある。この中でより「ボードゲーム」らしいルールは「トーナメント」の方であるのでこちらを取り上げる。これは初めにいくつかの持ちチップが与えられ、これを互いに奪い合う。自分のチップが全て無くなるとゲームから脱落し、最後まで残ったプレイヤーが勝利する。いわゆるバトルロイヤル形式のゲームスタイルだ。(ちなみにリングゲームは好きなタイミングで個々がゲームを始めたり終えたり出来るルール)これは個々の持ち金が有利不利に影響せず、フェアなゲームが楽しめる、「テキサスホールデム」のメジャーな遊び方と言える。 ただしこの遊び方は最初から最後まで遊ぼうとすると、とても時間がかかる。誰か1人が脱落してもチップの総数が減るわけでは無いので、段々とテンポが良くなっていくわけでは無いし、そもそもプレイしている人数もそれなりに多かったりするので、まあ時間がかかる。そして大体どのくらいで終わるかを予想するのも難しい。思ったより早く終わる時もあれば、その逆もあるだろう。一応時間によって最低のベット金額が上昇するなどゲームを収束させる仕掛けもあるのだが、いずれにせよ十分な時間を確保する必要はある。ボードゲームでプレイ時間が長く、そしてどのくらいで終わるかが予想できないというのは、遊びにくいゲームという印象を与えてしまうだろう。 【①-②:脱落がある】「テキサスホールデム」で自分のチップが全て無くなったプレイヤーは脱落するのだが、この「脱落」というシステムも問題になりやすい。「テキサスホールデム」であれば脱落したプレイヤーは別のゲームに参加したり、お店でプレイしてるときは帰ったりすればよいのだろうが、ボードゲームでそれは難しい。オープン会で遊んでいるならそれも可能だろうが、誰かの家やゲームカフェで集まって遊んでいるなら、終わるまでそのプレイヤーに待ってもらうしかない。待っている方も待たせている方も、多分それは気まずい時間になる。実際現代のボードゲームで「脱落」のシステムはほとんど採用されることが無く、これが問題を抱えていることは何となく理解できるはずだ。 【①-③:得点を奪い合うゲームである】「テキサスホールデム」では他人から得点を奪い・奪われるという形式だが、これもピーキーな展開を生みやすい要因だ。両者が得点を稼ぐという形式に比べて、単純に奪った・奪われた側で点数の開きが大きくなりがちだ。ゲーム中盤でほとんど順位が決定してしまうという事態も発生しやすい。またこのような形式は「誰かのミス」が「誰かの得点」に繋がる。そのためゲームに慣れていないプレイヤーが途中で大きなミスをして、それが勝敗を決定づけるということもよくあるだろう。もしそうなってしまえばそのプレイヤーにとってトラウマのような体験になってしまうだろうし、他のプレイヤーも見ていて気持ちの良いものではないはずだ。 【①-④:ゲーム毎の重要度を自分で決められる】「ゲーム毎の重要度」、これはつまり「ベットの金額を自分である程度決めて良い」というルールのことである。プレイヤーが多くのチップをベットすればその勝負の重要度は極めて高いものになるだろうし、逆にほとんどチップを賭けていない勝負は結果に影響しない。この「勝てる時には強く勝て!」というシステムは良い面もある。単発の勝負で見たら運の要素が強い「ポーカー」だが、この「勝負の重要度を自分で決めて良い」というシステムのおかげで、ある程度運の要素が緩和され、実力が出やすいゲームになっている。更に言うなら「テキサスホールデム」とは長いゲームの中で、強く出れる勝負所を見極めるゲームと言えるだろう。 だが全員がその認識を持ってゲームをしているわけではない「ボードゲーム」においては良くない働きをしている部分もある。1回の勝負に費やす時間は変わらないのに、あるゲームでは1点しか取れず、あるゲームでは100点取れるといった事態が発生するなら、前者のような勝負は徒労に感じてしまう。また慣れていないプレイヤーが「オールイン」といった極端なベットが出来る余地があるのも、ゲーム展開がピーキーなものになりやすいという問題に繋がっている。勿論全員が最初からそういうゲームであると理解した上で参加しているなら問題は無いのだが、先に述べた通りボードゲームという遊びでは難しく、不満が生まれやすいと言えるだろう。 【①-⑤:手札の推測に前提知識が必要である】「テキサスホールデム」では相手の手札を推測することが非常に重要なのだが、これをするためには「テキサスホールデムの基礎知識」を知っていなければいけない。それは「このタイミングでレイズするのはどのような意味を持つのか」「どういった初期手札が強いとされるのか」「なぜそのような考え方をするのか」といったもののことである。勿論こういった前提知識が無くてもゲーム自体をプレイすることは出来るだろうが、知っている・知らないでは勝率だけでなく、ゲームを楽しめるかどうかにも影響する。例えばブラフを張る時にも、知らなければただ「レイズ」をすることしかできないが、前提知識があればより上手に嘘を吐くことも出来るはずだ。 またこういった「知識」がゲームの中で自然と身に着くかというと、中々そうではないのも難しい。最大限楽しむには、まず初めに理論を知り、実戦でそれを覚えていく必要がある。この「前提知識」を把握しないとゲームが楽しみにくいというのは、インストから始まりがちなボードゲームとしてはマイナスポイントと言えるだろう。 【①-⑥:手札の強弱の理解・予想が難しい】6つ目は手札の強弱に関する部分が、それなりに難解だということだ。ゲーム紹介でも述べたが「最強になるように7枚から5枚のカードを選ぶ」という行為だけでも、初心者にとっては障壁になりかねない。また実際のゲームでは、一度に全てのカードを見れるわけではなく、段階的にカードが公開される。カードが捲れるたびに自分の手札がどのように変化していくか、それを正確に理解・予想をするのはかなり難しい。 戦略の部分ではなく、基本的な進行の部分で躓いてしまう余地は出来ればない方が良いだろう。 【①-⑦:基本的には降りるゲームである】「テキサスホールデム」において、1回の勝負で得点を得れるプレイヤーは1人だけだ。例えば7人で遊んでいる時、1人が勝者になり、他6人は敗者になる。この時、他6人が取るべき最善の戦略は「早く降りる」ことだ。「テキサスホールデム」の1回の勝負では2位や3位といったものに価値はなく、1位になれないなら勝負から降りた方が良い。これは単純計算ではあるが、7人でプレイしているなら7回に1回しか勝利できないわけで、毎回勝ちを狙うというのは無謀なのが分かるだろう。実際全てのゲームに参加しようとしてしまうというのは初心者がやりがちなミスの1つである。 つまり「テキサスホールデム」ではほとんどの勝負で「降りる」ことが最善であり、そうした場合プレイヤーは何もしないで他のプレイヤーを待たねばならない。そして人数が増えれば増える程、勝率は低くなり、待ち時間は増える。「勝者総取り」という構造がテキサスホールデム特有の戦略性を生み出しているのは間違いないが、「ダウンタイム」を発生させる要因になることも意識すべきだろう。 さあここまで「テキサスホールデム」をボードゲーム的に解釈したとき、課題となる点を7つ挙げさせてもらった。こうして見ると、「テキサスホールデム」が嫌いなのか?と思われるような文章だが、もちろんそうではない。これらは「ボードゲーム」として見るなら確かに課題ではあるかもしれないが、最初に述べた「テキサスホールデム」の性質、「それを遊びたい人が集まる」という前提があるなら、これは問題にはならない。むしろこれらの要素はテキサスホールデムというゲームの奥深さに繋がっているはずだ。 しかし僕がやろうとしているのは、テキサスホールデムのボードゲーム化であり、そのためにはこの7つの課題を解決しなくてはならなかった。 【②分析:ギャングポーカー】解決すべき課題を整理したところで、次は同じ「テキサスホールデム」をベースにしたボードゲームで、成功したものを取り上げたい。それは「the Gang」。「ギャングポーカー」という名前で日本語版も発売予定の爆裂面白ゲームである。前回のゲムマ2024秋にて先行発売され、何かと話題に上がることも多いので、知っている人も多いだろう。勿論自分もプレイしたがとても面白いゲームなので、やってない方は是非プレイしてみて欲しい。 この「ギャングポーカー」は「テキサスホールデム」をベースにしたボードゲームであり、その成功例である。似たようなことをやろうとしている今作にとって、この話題の新作「ギャングポーカー」は無視できない存在だ。なのでまず「ギャングポーカー」の何が凄いと感じたのかを簡単に解説することにする。 『ギャングポーカー』が最も革新的な点は、「テキサスホールデム」から「得点」の要素を完全に削ぎ落したことにある。『ギャングポーカー』には個人の得点を示すような得点チップは存在しないし、そもそも全員で勝利を目指す協力ゲームだ。これは確かにスマートな解決方法のようだ。実際先に述べた課題の多くは、得点と対戦という要素に紐づいている。ならばそれを削ってしまえば、多くの課題が解決するだろう。 このシンプルにして大胆な変更を、多くのポーカーライクゲームが実行できなかったのは、このような形式が「ポーカー」らしさに繋がってもいるからだ。「レイズ」や「フォールド」といったアクションを通した駆け引き、そしてそれに伴うブラフなどの要素は、確かに「ポーカー」の中核を成すもので、ポーカー」を参考にゲームを作ろうとするとき、これを切り捨てるのは中々難しい。 だが「ギャングポーカー」は「テキサスホールデム」の面白さの本質を「カードの捲れとベットの上昇から相手の手札を推測すること」にあると考え、それ以外の要素は別のもので置き換えることが可能だと結論づけたわけだ。この思い切りの良さと面白さの本質以外の部分を徹底的に削ぎ落す姿勢はとても素晴らしい。そしてそれはチャレンジングなだけでなく、上手く機能している。 「ギャングポーカー」では自分の手札が弱くてもそれが原因で負けることは無いし、「勝負から降りる」という要素も無くなったので待ち時間が発生することも無くなった。言ってしまえば「対戦」から「協力」という形式に変わっただけかもしれないが、それだけシンプルな変更点で多数の問題が解決しているのは本当に見事である。【③ブッ倒せ!ギャングポーカー】と、ここまで「ギャングポーカー」をべた褒めしていると、「ギャングポーカーがあるなら新作なんて必要ないんじゃない?」という声が聞こえてきそうだ。確かに1人のプレイヤーとして『ギャングポーカー』を評価するだけなら爆裂面白ゲーム!とか言ってて問題ないのだが、製作者として見ると途端にこれは強大なライバルになる。勿論『ギャングポーカー』と『テキサスの流儀』は販売規模が恐ろしく違うため、ライバルというのはかなりおこがましいのだが、遊んでくれるプレイヤーにとっては同じ1つのゲームだ。向こうからは相手にされてはないだろうが、こちらとしては『ギャングポーカー』の存在は避けては通れないし、むしろこれをブッ倒すくらいの気持ちでいるべきだろう。 そしてもし『ギャングポーカー』が非の打ちどころのない完璧なゲームであったなら、僕は新作を出してないし、この記事を書くこともなかっただろう。でも実際そうはなってない。というわけで次は『ギャングポーカー』に依然として残る課題を取り上げ、活路を切り開いていくことにする。 『ギャングポーカー』は進行のルールを大きく作り替えた。そしてこれは素晴らしい変更点だった。ただ対照的に「相手の手札を推測する」という部分はほとんどそのままの形でゲームに採用されている。つまり「手札」に関する課題は、解決されることなく、そっくりそのまま残っているのである。『ギャングポーカー』では依然として相手の手札を推測するのに「前提知識」が必要ではあるし、手札の強弱が理解しにくいという問題を抱えている。(ブラフをする必要が無くなったので、多少分かりやすくなってはいるが)さらに言えば「対戦」から「協力」に形式が変更されたため、「テキサスホールデム」では失敗しても自分が損するだけで済んでいたが「ギャングポーカー」では1人の失敗がチーム全体の失敗に繋がってしまう。「テキサスホールデム」に馴れていないプレイヤーにとってはより厳しいゲームになっているのである。 そもそも『ギャングポーカー』は「テキサスホールデムを短い時間で楽しめるゲーム」であるのは間違いないだろうが、「テキサスホールデム入門にうってつけ!」といったゲームでは無い。『ギャングポーカー』のターゲットは「テキサスホールデムを何も知らない初心者」ではなく、「ある程度テキサスホールデムを知っているプレイヤー」なのだと思う。(これは海外では日本より「テキサスホールデム」がよりメジャーな遊びであることが関係しているのかもしれない) そしてもう1つの活路は『ギャングポーカー』が削ぎ落したもの、つまり「対戦」という形式や「得点チップのやり取り」といった要素の中にも、面白さや「ポーカー」らしさがあるということ。確かにゲーム進行の部分はボードゲーム的に見るなら良く出来たシステムとは言えないかもしれない。しかし「勝者総取り」や「ブラフ」といった部分がポーカー特有の面白さを生んでもいるのも事実だ。『ギャングポーカー』が「対戦」から「協力」へ形式を組み替えたことは独自性に繋がっているのだが、「対戦」という形式を維持したまま問題を解決できるなら、また別の面白さを提供することが可能かもしれない。 これら2つの事柄から「初心者向けのテキサスホールデム」という切り口であれば、『ギャングポーカー』とは十分に差別化できそうだ。「よりシンプルに、よりスピーディーに遊べるテキサスホールデム」というコンセプトを定めて、それを実現するために何が必要かを考えることにした。 【④面白さの本質の分析・分解・再構築】さて、自分はこれまで3年ほど同人ボードゲームを作り続けてきた。その中で何となくわかってきたのは、何らかのゲームを参考にして新しいゲームを制作する時、その元ネタのゲームの「面白さの本質」がどこにあるのかを把握するのがとても重要だということだ。例えば自分は「パチスロ」という遊びを元ネタにした『パチスロシミュレーター』というゲームを制作したことがある。この時「パチスロ」という遊びの本質を「当たりを引いてメダルを稼ぐこと」ではなく「データを集めて隠された設定を推測すること」だと捉えた。そしてその認識を軸にして、「パチスロ」という遊びを分解・再構築し『パチスロシミュレーター』というゲームが完成した。この時の自分の認識が正しいかどうかは一旦いい。人によっては別の部分が「面白さの本質」だと分析することもあるだろう。重要なのはそのゲームを自分の中でどう捉えるか。「面白さの本質」がどこにあるのかをしっかり認識していれば、それ以外の要素を自由に組み替えることも可能になるはずだ。 では「テキサスホールデム」というゲームの「面白さの本質」がどこにあると自分は考えたのか。参考に「ギャングポーカー」では「場札の捲りとベットの上昇を通して、相手の手札を推測すること」だと捉えた。そして自分は「現在価値・将来価値・掛け金の3つを天秤にかけること」だと考えた。 「テキサスホールデム」の手札には「現在価値」と「将来価値」の2つの価値がある。(この単語は自分が勝手に呼んでいるもので、もしかしたら専門的な用語が別にあるかもしれない)「現在価値」は今見えている手札だけで判断した価値だ。今の時点で勝負になったらどの程度強いかということを示している。「将来価値」は捲れるカードを考慮して将来的にどの程度価値があるかを示したものだ。「強くなる可能性」と言っても良い。 「テキサスホールデム」ではこの2つの価値が同時に存在する。例えば初手の2枚が同じランクであるなら、「現在価値」が高い手札と言える。対照的に今は何の役も出来ていないがあと1枚スペードが捲れれば「フラッシュ」になるといった手札は、「現在価値」が低く「将来価値」が高いと言えるだろう。 「テキサスホールデム」で面白いのは、この2つの価値の重要度が少しずつ変化していく点だ。例えばゲーム初めの2枚しか配られていないとき、「将来価値」の重要度は高い。まだほとんどのカードが見えていないし、それによって如何様にも強さが変動するからだ。しかしカードが捲れるたび、「将来価値」の重要度は減っていき、逆に「現在価値」の重要度はどんどん上がっていく。そして5枚目の場札が捲れた瞬間に「将来価値」は意味を無くし、「現在価値」だけで勝負が行われる。この2つの価値が段階的に移り変わっていくこと、そしてプレイヤーはそれを踏まえてベットを行わなければならない。例えば「現在価値」が低く「将来価値」が高い手札の時、それが強くなることを信じて相手のレイズに応じるのか?もしくは「現状価値」が高い手札を信じて強気にベットするのか?場札によって手札の強さは常に変化していく。その中で「現在価値・将来価値・掛け金の丁度良いバランスを見つける」のがテキサスホールデムの「面白さの本質」だと自分は考えた。 そしてその構造をシンプルに実装しようとしたのが、今作『テキサスの流儀』の「役アイコン」だ。『テキサスの流儀』では新しいカードが手札に加わることは無いので、始めの2枚から一切変動することは無い。しかし5枚の場札によって価値は大きく変動する。自分の手札に対応する役アイコンが出現すれば、そのプレイヤーの「現在価値」は大きくなるだろうし、自分とは関係のない役アイコンが登場すれば自分の手札の価値は相対的に低下するだろう。また役アイコンが場札に1枚も登場しなければ、「ノーハンドの時にどれだけ強いかという価値」が重要視されるようになる。逆に多数の役アイコンが登場した場合は「ノーハンドの時の強さ」という価値は重要度を失うことになる。 場札は段階的に公開され、その度に「現在価値」や「将来価値」は変化する。それを踏まえてレイズやフォールドを行うかという部分は、形を変えても「テキサスホールデム」の構造に非常に近いものになっている。そして何よりのポイントは、シンプルで分かりやすいことだ。勿論手札の変化の多様性や戦略性といった部分は元のゲームには及ばない。しかしルール量や処理の複雑さで元の構造を実現出来ているなら、それはとても価値があるはずだ。 【⑤7つの課題の解決策】『テキサスの流儀』において「役アイコン」は最も重要な要素であり、これを実装するに至った流れと狙いを解説できた時点で、このデザイナーズノートはほとんど役目を果たしている。他の調整は重要度からすればおまけみたいなものだ。ただ初めに「テキサスホールデム」の7つの課題という大風呂敷を広げておいて、それをどのように解決しようとしたのかを示さないまま記事を終えるのは打ち切り漫画みたいで後味が悪い。なのでこの項では初めに挙げた7つの課題を今作ではどう解決しようとしたのかをまとめようと思う。ゲーム紹介で紹介した部分と被るとこがあるので、簡潔に紹介する。 「①ゲーム時間が長い」&「②脱落がある」解決策:ゲームを脱落式ではなく、ラウンド式にして勝負が何回行われるかを固定にした。ただし固定ラウンド制は負けたプレイヤーがそれを取り返そうとするので、ゲーム終了に近づくにつれて掛け金が吊り上がっていくという問題もあった。今作では特定のタイミングで得点のリセットさせることでこの問題をある程度解決させようとしている。(ただしラウンド最後の勝負では掛け金が吊り上がりがちで、完全に問題が解決されているわけではない) 「③得点を奪い合うゲームである』&「④ゲームの重要度を自分で決められる」解決策:1回の勝負でベット出来る金額に上限値を定めた。具体的には下限値が「1」で、上限値が「5」である。このおかげで1回の勝負で大量に得点が移動することは無くなった。またもしそれが起きた場合でも定期的に「得点のリセット」が発生するためゲーム終了までそれを引きずる心配はない。 「⑤推測に事前知識が必要」&「⑥手札の強弱がわかりにくい」解決策:役アイコンによって解決を試みた。非常に分かりやすくはなったが、相手の手札を推測する要素は減った。 「⑦基本的に降りるゲームである」解決策:プレイ人数を4-5人に制限することで、プレイヤーが出来るだけゲームに参加できるようにした。理論上は6人以上でも問題なく遊ぶことは出来るだろうが、1人あたりの勝率やテンポを考慮して上限を5人に設定した。また3人プレイは2人のプレイヤーの間で得点が移動すると早々に勝敗が決定してしまう可能性があったので、最低プレイ人数は4人からにした。 【⑥1つの勝負を繰り返すという構造とテンポについて】最後に触れておきたいのは、7つの課題とは関係ないが、ゲームのテンポについての話だ。まず「ポーカー」というゲームは、手札が配られてから勝敗が着くまでの一連の勝負を何度も繰り返すという構造にある。これに近いものとしては「トリックテイキング」がある。トリックテイキングにおける1トリックはポーカーのものと違って非常に短いが、1つの勝負を繰り返すという点だけ見れば同じような構造だと言える。 そしてこれは忠告だが、もし「1つの勝負を繰り返す」という構造のゲームを作る際は、極限まで「テンポの良さ」に拘った方が良い。何故ならこの一連の勝負の中で少しでもテンポが悪かったり、処理が難しい部分があったりすると、それが何度も繰り返され恐ろしくテンポの悪いゲームになってしまいがちだからだ。 考えてみて欲しい。トリックテイキングで1トリックを行う度に、例えば手札の交換などの面倒臭い処理が一々挟まるのだとしたら、テンポが悪くなってしょうが無い。(いやそういうゲーム結構ある) どんなゲームであっても、テンポを意識することはとても大事だ。しかしこういった構造のゲームの場合は特に気を付けた方が良い。今作でも勿論その部分には気を使っている。紹介記事でも解説した「同一ラウンド中は山札をシャッフルしない」というルールはその最たるものだが、他にもいくつかあるので紹介する。 『⑥-①:確率表』今作には様々な状況で使える「確率表」が付属している。これには状況に応じた「役アイコン」の出現率や同じ役だった時の勝率など、様々な確率が記載されている。正直これはゲームに絶対必要かと問われればそうではない。「役アイコン」の総数だけを記載しておくだけでもゲームとしては問題ないはずだ。しかし確率を正確に知りたいと考えるプレイヤーがいた場合、その度にゲームは停滞してしまう。この時間は他プレイヤーにとっては待ち時間であるし、計算をしているプレイヤーも楽しい時間とは言えない。人は考える余地があれば、それに思考リソースを割こうとする。実際にはそこまで影響がないことに対しても。そういった事態は避けたかったので、初めからその時々の確率を公開し、考える余地を無くそうとした。ギャンブルをテーマにしたゲームでは、確率が見えすぎてしまうと逆に冷めるということもあるので万能な策ではないだろうが、今作においては上手くプレイヤーの思考負荷を減らし、テンポの良さに繋がっているはずだ。 『⑥-②:得点用紙』今作では1回の勝負で得た・失った得点は得点用紙に記入を行うわけだが、この時それぞれのプレイヤーが専用の得点用紙を1枚ずつ持つというルールになっている。よくあるゲームでは代表者が得点用紙を所持し、まとめてそれぞれの得点を記入するという形を取ることが多い。今作がこのような形式を取っていないのは、これもテンポを良くするための工夫なのだ。従来のゲームでは「①代表者が何点か聞く→②聞かれたプレイヤーが答える→③代表者が記入する」という流れを人数分繰り返すことになる。対して今作の形式ではそれぞれが「自分の得点を用紙に記入」すればそれで済む。全員が同時に記入を行うので他のプレイヤーを待っている時間も無い。これで削減されるのはわずかな時間だが、それでもテンポの向上に繋がっている。 ただこれは良いことばかりでもない。まず単純により多くの用紙とペンが必要になる為、制作コストは上がってしまっている。そして得点計算の回数がそもそも少ないゲーム(ゴーアウトなど)なら、コストに見合った恩恵は無いだろう。また最後に1回だけ得点計算があるようなゲームは、得点計算がサクッと終わり過ぎるのもかえって盛り上がりに欠けたりする。そのためどんなゲームにも採用出来るアイデアでは無いが、何回も得点計算を行う今作においては相性が良いはずだ。 これらの「テンポを良くする工夫」はもしかしたらやりすぎで、別に必要ないかもしれない。けれどそれほどまでに「1つのゲームの繰り返しという構造」と「テンポ」は問題になりやすいと考えていて、やりすぎなくらい気を遣うくらいがちょうどよいのだと思う。実際今作もこれらのおかげで「よりスピーディーに遊べるテキサスホールデム」を実現できているはずだ。是非ともこのミニマムな体験を味わってみて欲しい。 【⑦まとめ】新作『テキサスの流儀』に関するデザイナーズノートは以上だ。繰り返しになるが、このゲームは2025年5/3に開催される【ゲームマーケット2025春】にて販売予定だ。価格は2500円。是非【土Q43-サイシュピール】ブースに遊びに来て欲しい!待ってるよ! 【⑧おまけと贖罪】最後に1つ、ゲームとは直接関係ないが、述べておきたいことがある。そもそもこのゲームの元ネタは何度も言っているように「テキサスホールデム」なのだが、制作を始めたきっかけは別のゲームにある。それは「ばる倶楽部」さんというサークルの「掛け引きほーるでむ」というゲームだ。「ばる倶楽部」さんは自分と同じ静岡在住のサークルで、よく「静岡テストプレイ会」という形でテストプレイを共に行っている。『掛け引きほーるでむ』は名前からも読み取れるように、これも「テキサスホールデム」をベースにしたボードゲームだ。そして『テキサスの流儀』の制作を始める前からこの作品はテストプレイを重ねていて、自分もよくプレイさせてもらい感想を言い合っていた。そんな日々の中、感想を言うためにもやもやテキサスホールデムのことを考えていたら、「役アイコン」のアイデアを思い付いた。しかし従来の『掛け引きほーるでむ』の要素とは離れたアイデアであったため、もしこれを採用するなら別のゲームになってしまうだろうという確信があった。実際に「ばる倶楽部」さんにそのアイデアを共有したが、案の定実際に採用されることは無かった。しかし自分としてはこの「役アイコン」のアイデアは中々面白く、捨てるのは勿体なかったので、「ばる倶楽部」さんに許可を取ったうえで、『テキサスの流儀』の制作を始めることにした。これが今作の経緯である。 ただシステムはかなり異なるし、本人に許可は取ったとはいえ、テストプレイしたものと同じコンセプトのゲームを後追いで作り始めるという普通にゲキヤバなことをしているのは事実である。これを許してくれた「ばる倶楽部」さんに最大限に感謝していることをここに記しておく。 そして件の『掛け引きほーるでむ』も自分とは別の切り口で「テキサスホールデムのシンプル化」に挑戦したゲームである。名古屋ボードゲーム楽市で先行販売され、ゲームマーケット2025春でも発売を予定している!単体で遊んでも、両者を比較しながら遊んでもきっと楽しいはずだ。この記事を読んで「テキサスホールデム」そのものに興味が出た人もそうでない人も是非チェックしてみて欲しい!(贖罪終わり)
- 2025/5/3 13:02
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- ゲーム紹介『テキサスの流儀』
- Megalomaniac Gameは5月17日に開催される「ゲームマーケット2025春」にて新作『テキサスの流儀』を販売します! この記事では今作のゲーム内容を詳しく解説!これさえ読めば、大体どんなゲームかわかる!といった内容になっています。 また同時に公開されているデザイナーズノートの方では、もう少し掘り下げてゲームデザインについて解説!良ければそちらも併せてお読みください!【デザイナーズノート:テキサスの流儀】 https://gamemarket.jp/blog/192802さて、前置きはこのくらいにして早速ゲームの紹介に移りましょう! 【①概要】タイトル:『テキサスの流儀』プレイ人数:4~5人プレイ時間:30分対象年齢:10歳以上価格:2500円 【②ゲーム内容】まず初め述べておきたいこと、それは今作にはベースになっているゲームがあります!それは「テキサスホールデム」!いわゆるトランプで遊べるポーカーの一種です。 日本でメジャーな、5枚の手札を入れ替えて手役を作っていく、いわゆる「ドローポーカー」とは少し違ったルールで、全員が使える5枚の場札が存在するのが特徴です。昔は知る人ぞ知るといった感じのゲームではありましたが、近年はアプリや専門店、YouTubeの存在もあって知名度をメキメキ伸ばしている遊びであります。ボードゲームでも前回のゲームマーケット2024秋で「テキサスホールデム」をベースにした面白ゲーム、「the Gang(ギャングポーカー)」が話題になったことで知っている人も多いのではないでしょうか? そして今作『テキサスの流儀』は「テキサスホールデム」「the Gang」の流れを汲むゲームと言えるでしょう。コンセプトは「よりシンプルに、よりスピーディーに遊べるテキサスホールデム」!「テキサスホールデム」を遊んだことある方、遊んだことない方どちらにもオススメしたいゲームに仕上がっています! 【③ゲームの流れ】では実際にゲームの流れを解説……と行きたいところですが、実は今作、ゲームの進行方法については「テキサスホールデム」とほとんど同じだと思って貰って構いません。 2枚の手札を配り、スタートプレイヤーから手番を行う……手番では「レイズ」や「コール」を行う。手札に自信が無い時は「フォールド」して今回のゲームから降りることも出来る……段階的に場札が公開され、これを見ながらまた手番を行う……最後まで残ったプレイヤーは手札を公開して、最も強い役を持つプレイヤーが勝利する……そしてこれを繰り返して点数のやりとりする…… そう!聞けば聞くほど、テキサスホールデムそのままと言えるでしょう!もちろん細かい所にいくつも違いはあります。ただ大きな目で見るとほとんど同じといってもいいほどです! それではこのゲーム特有の部分はどこにあるのか?ポイントは「役」、つまり勝敗がどう決まるかの部分にあります。 【④テキサスホールデムの役】その前に言っておきたいのは、そもそも『テキサスホールデム」での手札の強弱って結構分かりにくいと思いませんか? 『テキサスホールデム』、というか「ポーカー」では全部で10種類の役が登場します。これは初心者にとっては、ギョッと驚いてしまうくらいの多さです!実際似たような条件の役がいくつかあったりとそこまで複雑ではないですが、「まず10種類の役を覚えてね」というのはハードルが高く感じます。そして覚えた役の殆どは実際のゲームで成立することが滅多にないことも、馴染みが無い人にとっては「なんじゃそりゃ」という気分になるのではないでしょうか?(麻雀も似たようなことが言えますね) 加えて、テキサスホールデム特有の「7枚の中から最強になる5枚を選ぶ」という部分も初心者にとってはかなり難しいルールだと感じます。「どの組み合わせが一番最強になるのか」、これは慣れてしまえば瞬時に理解出来るでしょうが、初心者はこれを読み解くために時間がかかってしまう。これは「悩ましさ」に対してではなく「ゲームの処理を理解」するために費やしている時間です。初心者がこういった部分で考えすぎてしまうのは、あまり望ましいとは言えないでしょう。 ただ上記に挙げた「沢山の役」や「7枚から5枚選ぶ」というシステムは「テキサスホールデム」というゲームをより悩ましく、戦略的なものにしているのも事実です。コンセプトである「よりシンプルによりスピーディーに遊べるテキサスホールデム」を実現するためには、シンプルにするだけでは駄目で、この悩ましさや戦略性を程よく楽しめるようにする必要があると考えました。 【⑤テキサスの流儀の役】そう言った事情を踏まえた上で、今作『テキサスの流儀』の役を解説しましょう。今作には全部で5つの役が登場します。登場する役の強さ関係は上記の通りで、ペアが1番強い役で、ノーハンド(ブタ)が最も弱い役になります。本家『テキサスホールデム』の10種の役と比べると半分に減っていて、初めて遊ぶプレイヤーでも比較的覚えやすいかと思います。 そして役の条件ですが、これもウルトラシンプル。今作では「7枚から5枚を選ぶ」のではなく、ただ2枚の手札だけを参照します。 例えば最強の役である「ペア」は、手札2枚の数字が同じであればそれだけでOK!他の役も確認するのは、2枚の手札が条件を満たしているかどうかだけです。 ただこれだけ聞くと、初めの手札で全ての勝負が決まってしまうように思えるかもしれません。ここに戦略性を加えるのが『役アイコン』という独自の要素になります。 『テキサスの流儀』では『テキサスホールデム』と同様に5枚の場札(コミュニティカード)が捲れます。『テキサスホールデム』では手札とこれを組み合わせて役を作るわけですが、先述の通り、今作は手札のみで役を作ります。では5枚の場札はどのような働きをするのでしょうか。まず場札に置かれたカードの数字や色は一切意味を持ちません。重要なのはカード下部に書かれた『役アイコン』です。(上記のカードの牛の下のに書かれているアイコン)「役アイコン」は「ノーハンド」を除く4つの役に対応するものがあり、それぞれアイコン毎に一定の確率で登場します。(役アイコンが書かれてないカードもあります)そして重要なのは「場札」に出現しなかった役は、その勝負では「存在しないもの」として扱われます! 例えば5枚の場札の中に「フラッシュ」と「ストレート」の役アイコンだけが出現したなら、その勝負に存在する役は「フラッシュ」「ストレート」「ノーハンド」の3つだけになります。つまり手札の2枚が同じ数字で「ペア」の条件を満たしていても、この場合「ノーハンド」として扱われることになるのです! これが実際どのようなジレンマを産むのか、実際のゲームの流れに沿って見てみましょう。例えば以下のような手札があなたの元に来たとしましょう。2枚の手札は同じ色であるため「フラッシュ」の条件を達成しています。あなたはこれが成立することに掛けて勝負を続けます。 そして場札が3枚公開されると、その中に「フラッシュ」の役アイコンはありません!さらに対戦相手の1人が「レイズ」を宣言し、掛け金を上げてきました。 もし残りの2枚で「フラッシュ」のアイコンが捲れれば、きっと勝負には勝てるはずです。ただしもう場札は5枚のうち3枚が公開されているので先ほどより役が成立する確率は低下しています。リスクを承知で勝負を続けるか、それとも失点を減らすため勝負から降りるか、頭を悩ませることになるでしょう。 そしてまた別の状況を想定してみます。今回の手札を確認すると、2枚の数字が連番で、これは「ストレート」の条件を満たしています!そして5枚の場札の中にも「ストレート」の役アイコンが登場したので、無事役は成立しています。ただ問題は5枚の中に「ストレート」だけでなく「ペア」のアイコンも登場していることです! 「ペア」の条件である「手札が同じランク」になるのは約8%で、相手がそれを持っている可能性は低いはずです。ただ、なんだか相手は強気に賭け金を上げてくるし、もしかしたら「ペア」、そうでなくても「ストレート」くらいは成立しているのかもしれません……勿論こちらがそう考えるの見越してブラフを貼っている可能性もあります!勝負に出るべきか、安全策を取るか、これもまた悩ましく難しい選択です。 このような「場札の捲りによる手札の強弱・期待値が変化する」「賭け金の上昇による駆け引き」「ブラフ」といった要素はまさしく「テキサスホールデム」と同じゲーム性だと言えるでしょう。勿論「テキサスホールデム」と比べれば要素はシンプルになり、奥深さや戦略性と言った部分は少なくなっているかもしれません。ただ、だからこそ誰にでも分かりやすく、「テキサスホールデム」が持つ面白さを体験できるゲームに仕上がっていると思います!是非このミニマムな体験を味わってください!【⑥失敗が許される得点システム】今作の最も中核のシステムは先ほど紹介した「役アイコン」なのですが、その他のシステムにも色々とこだわりがあります。次はそのうちの一つである「得点システム」を紹介します。 「テキサスホールデム」やポーカーをベースにしたボードゲームでよくある得点システムは、プレイヤー毎に「得点チップ」を持ち、それを互いに奪い合うという形式です。今作も基本的にはそれに似た形式ではあるのですが、この「得点を奪い合う」というルールは何かと問題が発生しやすいものと言えます。その最たるものは「誰かの失敗が、誰かの利益になる」という点です。 例えば誰か二人のプレイヤーが互いに「オールイン」した時、その勝敗でゲーム全体の勝負が決まりかねません。その勝負に参加している二人なら納得がいくでしょうが、他のプレイヤーにとっては自分の関係のないところで順位が決まってしまうのは、納得できるものではないでしょう。つまりこれは「キングメーカー」と言われる問題で、ポーカーの得点形式はこれが発生しやすいシステムだと言えるでしょう。 そしてもう1つは、プレイヤーがある程度自由にベットする額を決められるという点。これは運要素の強いポーカーにおいて、ある程度それを緩和してくれる効果があるのは確かですが、結局終盤にオールインが多発し、ピーキーな展開になりやすいという問題点を抱えています。考えてみてください。プレイ時間が30分~45分ほどのゲームで、最後の一勝負、例えばたった2分の勝負で全ての勝敗が決まるのだとしたら、それまでの積み重ねがまるで意味が無かったかのように思えてしまうでしょう。また途中で大きな点差が離れてしまうと、逆転するのが難しく、残りが消化試合になってしまいがちなのも問題と言えます。今作ではそういった問題を解決するために、「ラウンド制」と「順位点」という要素を取り入れています。ゲームは全部で3ラウンド行われ、1ラウンドでは4回の勝負を行います。そしてここがポイントなのですが、ラウンドが終了するとその順位に応じた勝利点を得た後、今までの点数が一度リセットされます!つまり次のラウンドでは今までの点数差は無くなり、また全員同じ状態からスタートするわけです。(麻雀の「東風」や「半荘」といったイメージです) この形式は色んな良い効果をゲームにもたらしています。まずゲーム途中での「失敗」がある程度許されること。途中で大きく負けた場合、そのラウンドで勝利するのは難しくなるでしょうが、次のラウンドはまた新しい気持ちでスタートできます。一度の失敗をゲーム終了まで引きずる必要はないのです。逆に圧倒的に1位を獲ろうと、ギリギリで1位を獲ろうと、1位の順位点は変わらないので、点数を大きく離されてもまだ逆転できる可能性があると言えるでしょう。またラウンド終了時の順位という短期的な目標があるため、ゲームの焦点がよりわかりやすく、展開が間延びしにくくなっているのもアピールポイントです。 「テキサスホールデム」はやり込めばやり込むほど面白いゲームですが、逆に初めて遊ぶ時はイマイチ勝負所が分かりにくかったりします。ただ今作は「失敗が許される得点システム」「短期的な目標」といった要素によって初めて遊ぶ時から比較的理解しやすいゲームになっています!「テキサスホールデムはなんだか難しそう……」といったイメージを抱いている方にこそオススメです!【⑦ゲームのテンポをよくする工夫】最後に解説したいのは「ゲームのテンポ」についてです。 まず「テキサスホールデム」は、様々なテクニックが介入する余地があるとはいえ、基本的には運の要素が強いゲームです。そしてこういったゲームを改良するには主に二つの方法があります。1つは「プレイヤーが介入する余地を増やして戦略性を増やす方法」、端的に言えば運の要素を抑えるように調整する方法。もう1つは「運要素は割り切ってゲームのテンポをよくする方に注力すること」です。 そして今作で取り組んだのは後者でした!何故なら手札が配られて役に強さが存在するポーカーというゲームでは、どこまでいっても運の要素は付きまといます。であるならそこを解消するために複雑なルールを追加するより、割り切ってしまう方がスマートな方法だと自分は考えました。そもそも運の要素が強いゲームというのは、それだけでは悪いゲームではありません。最悪なのは、勝負の殆どが運で決まるのに、ルールや処理が複雑だったり、テンポが悪くダラダラ進行することです。そのため今作はゲームのテンポを良くするためのしかけをいくつも取り入れています。その全部は紹介しきれませんが、特徴的なものをあげるなら「シャッフル」です。 ポーカーでは原則として1回の勝負が終了するたびに、毎回シャッフルを行います。これはゲーム的にしょうがないのですが、めんどくさいと感じる部分でもあります。そもそも「シャッフル」という行為は、あまりに多くのゲームに取り入れられてるため言及されることは少ないですが、結構な手間です。それを待っている時間は何もすることが出来ないし、だからといって適当にすませてゲームが台無しになるのも最悪でしょう。 特にポーカーというゲームは1回の勝負がとても短いので、その度にシャッフルが発生するのはゲームのテンポを削いでいる。今作はそこを問題だと捉えて、「シャッフル」の回数を出来るだけ減らしています。具体的に言えば、同一ラウンド中は山札をシャッフルしません。そのためゲーム中のシャッフルの回数はたった3回に抑えられています。 通常のポーカーでシャッフルを行わないまま、次のゲームに行こうとすると、カウンティングの重要度が増すことでゲームが複雑になり、かえってテンポが悪くなる可能性がありました。しかし今作は先に述べたように手札は初めに配られる2枚だけでそれ以上増えないため、カウンティングはあまり重要ではなく、このルールを実装することが出来ました。「シャッフルをしない」、たったそれだけではありますが、ゲームのテンポは格段に向上しているはずです。 今作ではこういった「ゲームでは無い時間」を減らすことを徹底黄的に取り組みました。テンポよく、退屈することなく「テキサスホールデム」を楽しむことが出来るはずです。【⑧まとめ】さあ最後に言っておきたいのは、今作は「新しさに満ちたゲーム」ではないということです。何度も言っているように今作には「テキサスホールデム」という元ネタのゲームがありますし、一部のルールはまるっきりそのままだったりします。この記事で紹介したアレンジ部分を目を引くほど新しいアイデアがあるかと言われれば、全然そんなことは無いと思います。 同人ボードゲームに新しい刺激を何より求めている方には少し物足りなさを覚えるかもしれません。ただ自分としては、「よりシンプルに、よりスピーディーに遊べるテキサスホールデム」という当初のコンセプトをしっかり実現出来た良いゲームだと思います。新しさや派手さはあんまりないですが、地に足がついた良いゲームだと自信を持って言えるので、是非興味を持ってくれると嬉しいです!以上が新作『テキサスの流儀』の紹介でした!同時公開されているデザイナーズノートでは、ゲーム部分をもう少し掘り下げて解説。この記事を読んで興味を持ってくれた方は是非そちらも読んで頂けるとありがたいです!【デザイナーズノート:テキサスの流儀】 https://gamemarket.jp/blog/192802 繰り返しになりますが、このゲームは2025年5/3に開催される【ゲームマーケット2025春】にて販売予定です。価格は2500円!【土Q43-サイシュピール】ブースにてお待ちしております。
- 2025/4/22 18:50
- サイシュピール
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- ゲーム紹介『非実在少年少女』
- Megalomaniac Gameは2024年11月16・17日に開催される「ゲームマーケット2024秋」にて新作ボードゲーム『非実在少年少女』を販売します! この記事では今作のルールやアピールポイントを分かりやすく解説!これさえ読めば大体OKといった内容になっています。 【①基本情報】ゲームタイトル:『非実在少年少女』プレイ人数:2~5人プレイ時間:15分価格:2000円(記事中のコンポーネントはテストプレイ時のものであり、実際の製品とは異なる場合があります。ご了承ください) 【②概要】今作のジャンルは「協力型パーティーゲーム」!プレイヤー全員は協力してゲームクリアを目指します。 ゲームで重要になるのは「架空の友達(イマジナリーフレンド)」と呼称される1人の人物です。その名が示す通り、その人物は想像上の存在で、この世界に存在しません。ゲームではプレイヤーは協力して、この「架空の友達」をみんなで作り上げていくことになります。クリアのためにはプレイヤー全員がこの人物のことを深く理解することが重要になるでしょう。 とは言え、これだけでは何のことだか分かりませんので、実際のゲームの流れを解説していくことにします。 【③ゲームの流れ】ゲームは主にカードを用いて行います。準備の段階でこれらをシャッフルして山札を作ります。そしてゲームを始める前に、まずは「架空の友達」に名前を付けてこの世界に生み出してあげましょう!(名前も無いと不便ですからね)ただ、難しいことは何一つありません。先程作った山札からカードを2枚引き…… メインボードの空き枠に差し込むだけで……はい!「架空の友達」に「名前」と「年齢」が与えられ、新しくこの世に1人の人間が産まれました!(プレイヤーは名前を考える必要すらありません!)プレイヤー達はゲームを通して、更にこの人物のことを知っていくことになります。 では実際にゲームがどのように進行するのかを解説します。ゲームは主に「①君を知る」「②君を語る」「③君を想う」という3つのフェイズによって構成されます。順に見ていきましょう。 【1.君を知るフェイズ】このフェイズではプレイヤーは時計回りに手番を行います。重要になるのは「エピソードカード」と呼ばれるこのカード。これには1枚のカードに4つのエピソードが書かれています。プレイヤーは手札として2枚のエピソードカードを持っており、手番ではその中から1つのエピソードを選択します。そして選んだ「エピソード」が見えるようにメインボードの下に差し込みます。こうして差し込まれたエピソードは「架空の友達」のプロフィールに加えられます。これで1つ「架空の友達」のことを知ることが出来ました!その後手札が2枚になるように山札からカードを引いて、次の人の手番に移ります。 勿論始めは「架空の友達」についてわずかな情報しか知らないので、どのような人間かをイメージするのは難しいでしょう。しかしプレイヤー同士で互いにカードを出し合うことで、少しずつ「架空の友達」の人となりが見えてくるはずです! 既定の枚数のカードがメインボード上に出たなら「君を知るフェイズ」は終了し、次の「君を語るフェイズ」に移行します。 【2.君を語るフェイズ】このフェイズでは手番は無く、リアルタイムでゲームが進行します。とは言えここでやることもシンプル。用いるのは「質問カード」という名称のカード。ここには選択肢が2つある質問が書かれています。 フェイズの開始時、この質問カードを3枚公開し……プレイヤーは「2分間」、全員で「架空の友達」ならどちらの選択肢を選ぶかを自由に話し合います。ここで重要なのは自分の考えを押し通すことではなく、他人がどのようなイメージを抱いているのかを知り、それを共有することです。プレイヤー全員が「架空の友達」について共通の認識を持つことはクリアするのに不可欠です。自由に議論して、イメージを膨らましましょう。 「2分間」が経過したら、「君を語るフェイズ」は終了し、次の「君を想うフェイズ」に移行します。 【3.君を想うフェイズ】このフェイズでは、全員同時に手番を行います。 まずは「質問カード」の山札からカードを1枚捲り、公開しましょう。先程と同じように「架空の友達」ならどちらの選択を選ぶかを考えるわけですが、今回は相談してはいけません。今までのゲームを振り返り、最適だと思う選択肢を選びましょう。決まったら対応する「判定カード」を自分の前に伏せて置きます。全員がカードを伏せたら、同時に公開します。 全てのプレイヤーが同じ選択肢を選んでいれば大成功!最も望ましい結果です!しかし、異なる選択肢を選んでいるプレイヤーがいたなら……ペナルティとしてプレイヤー達は少数派の数に等しいライフを失います!!失敗するにしても出来るだけ失うライフが少なく出来ると良いでしょう。 この時プレイヤーのライフが0になったら即座にゲームオーバー!そうでなければ質問カードの山札が尽きるまで、これを繰り返します。 質問カードの山札が尽きた時、まだライフが残っていれば見事ゲームクリアです! 【④制作意図】今作は「特定の人に対して持っているイメージや固定観念」、いわば「偏見」や「各々の価値観」を題材にしたパーティーゲームです。こういったタイプのゲームは数多く存在していて、有名なものだと『アンユージュアルサスペクツ』、最近だと『偏見プロフィール』などがあります。実際今作のプレイ感や面白さの性質も、そのようなゲームと似たものであるのは間違いありません。こう聞くと「わざわざ同じタイプのゲームを買う必要はないな……」となる方もいるはずなので、ここでは今作がそういった既存の作品とどう差別化をしているかを解説していきます。 まず既存の作品の考察から述べましょう。いわゆる「価値観推測ゲーム」は以下の様な形式であることが多いです。 ①「特定のものに対するイメージを考える人(=親)」と「親がどのように考えたかを予想する人(=子)」が存在する。②親は「特定のもの」に対してのどのようなイメージを持っているかを考える。「特定のもの」は「存在しない人物の見た目(イラストや写真)」だったり「一緒に遊んでいる他プレイヤー」だったりする。③親は先ほどのイメージを発表し、子はそれをヒントにして親の考えを推測する。④親は正解を発表し、予想の成功失敗に応じて勝利点を得るなどの処理が入る。 ……ゲームの進行方法の違いなど、細かなバリエーションは大量にありますが、概ねこのような形式です。 そして僕はこういった形式が「クイズ」と似た構造にあると考えました。 実際に例を出して解説しましょう。「クイズ」では「出題者」が「回答者」にクイズという形で問題を出します。この時「出題者」が話すのは事前に決められた文章だけで、「回答者」側から質問などのアクションを取ることが出来ません。一方通行な関係と言えるでしょう。そして問題に対し「回答者」は考えるわけですが、基本的にクイズ中に調べたり新しいヒントを得ることは出来ないので、「回答者」は事前の知識を元に答えを考えることになります。最後に答えが発表されると、正解か否かという結果が示され、時には新しい知識を得るという面白さが得られます。 これを踏まえて既存の「価値観推測ゲーム」の形式を見ていきます。まず「親」は「子」に「お題から得たイメージ」を伝えます。基本的にこれは一度だけで、それ以降「親」は「子」に情報を伝えられず、「子」の方も親と交信することは出来ません。そして出題された後、大体のゲームでは「親がどのような価値観を持っているのか」を探ることは出来ません。そのため「子」は「自分が普通だと思っている価値観」や「事前に知っている親の情報」を元に推測を行います。答えが発表され、正解か不正解による感情の揺れ動き。時には価値観のズレが明らかになり、それを知る面白さを得られます。 こうして比べるだけで、「クイズ」と「価値観推測ゲーム」が非常に似た構造であることが見て取れます。そして似た構造であるがゆえに、「クイズ」で問題になりやすい点についても、同様にあると考えられます。 最も重要な部分は「ゲームの中で新しく情報を得ることが出来ない」という点です。そのため「クイズ」では事前に多くの知識を持っている人ほど有利です。また知識がある方が正解という成功体験を得やすいため、「クイズ」は知識を持つプレイヤーほど有利で楽しい遊びであると言えます。逆にその点が初心者にはハードルが高く、避けられる要因にもなります。 「価値観推測ゲーム」では「クイズ」のように専門的な知識は必要ありませんが、代わりに「親」のことをどの程度知っているかが重要になります。親しい関係にあれば、日常のシーンを思い返し、それら全てがヒントになるでしょう。逆に相手の事を知らなければ、薄い根拠に縋って推測をしなくてはなりません。よくこの手のゲームは「仲の良い人同士で遊ぶのがオススメ」という売り文句が掲げられることがありますが、これは逆に知らない人同士だと本領が発揮されないということを端的に示しています。 ただ僕はこういった点が致命的な問題であるとは思いません。実際クイズが面白い遊びであるのは疑いようが無いですし、「誰と遊んでもほどほどに楽しいゲーム」より「親しい人となら120%楽しめるゲーム」方が良いということもあるでしょう。またそういった無茶ぶりがゲーム全体に気楽さをもたらしていたり、他人の意外な一面を知るきっかけになったりしています。 しかし個人的にパーティーゲームは「状況を選ばず遊べて、誰とでもほどほど楽しい」方が好みです。ルールが簡単でプレイのハードルが低いことから色んな場所で遊べるのが魅力だと思いますし、「親しい人と遊ぶと楽しい」と言えども同じメンツで何度も遊ぶタイプのゲームではないですから。 そこで僕は「価値観推測ゲーム」の「面白さがプレイヤー同士の親密度に依存しすぎてしまう」部分を解決したいと考えました。 ではそのために今作はどのようなことを試みているのか。それを解説するためにゲーム中のプレイヤーの心理を想定してみます。①ゲーム開始時、プレイヤーはそれぞれ「架空の友達」に対してバラバラの人物像を抱いている。②プレイヤーAが自分のイメージにピッタリ合う「エピソードカード」をプレイする。③他プレイヤーはそれを見て、プレイヤーAが想定しているであろう人物像を推測する。④自分の想定している人物像とピッタリ合っているなら問題なし。もしズレていると感じるなら自分のイメージに修正を加える。⑤修正したイメージを元に次のプレイヤーはまた「エピソードカード」をプレイする。⑥この③~⑤を何度も繰り返すことで、全員で共通認識を作り上げていく。 重要なのはプレイヤーが「親」と「子」という一方通行の関係ではない点、そしてカードを用いることで互いに意思疎通が取れる点です。ゲーム中では「自分のイメージを相手に伝える機会」、「相手のイメージを推測する機会」、「自分のイメージを修正する機会」が何度も与えられます。このため互いに面識が無いもの同士でも、ゲームの中で相手がどう考えているのかを知ることが出来るし、逆に自分がどう考えているかを伝えることが出来ます。勿論親しい人同士の方が意思疎通は取りやすいでしょうが、初対面同士であっても比較的ゲームが楽しみやすいようになっているはずです。 少し長くなったので話をまとめます。前述の通り、既存の「価値観推測ゲーム」は「クイズ」と似た構造のものが多くありました。しかし今作の「カードという限られたツールを用いて互いに意思疎通を取り合い、少しずつ共通認識を作り上げていく」という遊びは、どちらかといえば「制約がある中で意思疎通を取り合う」、いわゆる「コミュニケーションゲーム」に近い構造になっています。 「価値観」や「偏見」という題材に対して、「クイズゲーム」的なアプローチを取るのか、「コミュニケーションゲーム」的なアプローチを取るのか。違いといえばそれだけのことですが、同じようでちょっと異なるプレイ感を味わえるゲームに仕上がっているはずです。 【⑤どこでも誰とでも、テンポよく遊びやすく】そして今作についてもう1つだけ言及したいこと、それは「誰とでも遊びやすいゲーム」を目指して制作したということです。互いに面識がない人同士でも遊びやすく、という点は先ほど長々述べましたが、それ以外にもボードゲームに馴れていないプレイヤーが遊びやすい作りを意識しています。 例えば「君を知るフェイズ」では手札の限られたエピソードの中から選択する事しか出来ませんし、「君を想うフェイズ」では常に2つの選択肢のどちらかを選ぶだけです。また「名前」と「年齢」といった一見みんなで話し合って決めた方が楽しそうな要素さえ、プレイヤーに選択する余地はありません。 こういった作りはゲームに慣れているプレイヤーにとっては物足りなく感じるかもしれません。この手のゲームによく見られる「自由回答」のゲームはプレイヤーに無限の選択肢を与え、またデジタルでは実装が難しいことからアナログゲーム特有の楽しさを秘めています。実際プレイヤーに要求するスキルが高いほど、それが上手く行った時の快感も増すことでしょう。しかし同時にプレイするハードルも上がってしまいます。 そういった中で僕が最も恐れたのは、慣れていないプレイヤーが膨大な選択肢に思考が停止し、ゲームが停滞してしまうことでした。ダウンタイムの問題はどんなゲームにもついて回るものですが、そもそものゲーム時間が短いパーティーゲームにおいてこれが起きてしまうのは本当に致命的で、ゲームの印象が極端に悪くなってしまいがちです。これが起きるのを防ぐために、勿論ある程度の悩ましさは保ちつつも、出来るだけ選択肢を減らすことを心がけました。そのおかげで誰と一緒でも、テンポ良くストレスなく遊べるパーティーゲームになっていると思います! 【⑥まとめ】……以上が新作『非実在少年少女』の紹介でした。今作は新規性があるゲームというよりは、しっかりとした面白さがあるパーティーゲームを目指して制作しました。そのため説明だけでは少し地味に見えるとは思いますが、誰とでも遊べる良いゲームだと思います!良ければプレイしてみてください! 冒頭に述べた通り、今作は11/16-17に開催される「ゲームマーケット2024秋」にて販売されます。場所は「土N-20:サイシュピール」ブースです。販売は土曜のみなので注意してください! もしこの記事を読んで少しでも興味を持たれた方は是非足を運んでみてください!よろしくお願いします! それではここまでお読みいただきありがとうございました!
- 2024/11/5 16:22
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- ゲーム紹介『バザールの商人たち』
- Megalomaniac Gameは2024年4月27・28日に開催される「ゲームマーケット2024春」にて新作ボードゲーム『バザールの商人たち』を販売します! この記事では今作のルールやアピールポイントを分かりやすく解説! これさえ読めば大体OKといった内容になっています。 【①基本情報】 ゲーム名:『バザールの商人たち』 プレイ時間:10分 プレイ人数:6~7人 価格:1500円 【②作品のテーマ】 今作の舞台は「バザール」! バザールとは中東や中央アジアにある「市場」のことで、その語源は「物の値段の決まる場所」という言葉から来ていると言われています。 実際バザールでは物の値段が決まっていないのが普通で、買い手と売り手で価格交渉をするのが一般的です。そのためバザールでは商人たちが大きな声を出して客を引き留め、沢山の取引を行ってきました。 そしてプレイヤーもここに生きる「バザールの商人」の1人となり、この熱狂の渦に飛び込むことになるのです! 【③交渉×セットコレクション】 次に具体的なゲーム内容を紹介しましょう! 今作『バザールの商人たち』の基本的なシステムは【交渉】×【セットコレクション】です。 ゲームでは【商品カード】といったものが登場し、プレイヤーはこれを集めることになります。 商品は全部で9種類あり、それぞれ枚数や得点効率が異なるなど特徴が存在します。 そのためプレイヤーは手札を見て、「どの商品を集めるか」をよく考える必要があるでしょう。そしてカードを集めるためには他プレイヤーとの「交渉」が不可欠です!互いにいらないカードを提示して上手く商品を集めましょう! ……と、これだけだと何の変哲もない交渉ゲームのようです。実際「交渉」×「セットコレクション」という組み合わせは、『ピット』や『ボーナンザ』といった古いゲームでも良く見られる構造で、それ自体に目新しさがあるものではありません。 そこで!今作はこの古典的な交渉ゲームの構造に「役職」と「ロールプレイ」という2つの要素を取り入れることで捻りを加えています。 【④ゲームの流れ】 今作で重要なのがゲームをプレイする場所です。この「場所」という要素が今作ではとても重要です。 なぜなら今作は通常のボードゲームのように「テーブルの上でプレイする」のではなく、「実際に歩いて交渉を行う」ゲームだからです。 これは「マーダーミステリー」の調査フェイズやシド・サクソンの『ハグル』などを思い浮かべて貰うとイメージしやすいかと思います。 これらのゲームではプレイヤーは自由に歩き回りながら、情報を集めたり、交渉でカードを交換したりします。今作も同じように、ある程度の空間の中でプレイヤーは実際に歩き回り、交渉を行うことになるのです。 では実際のゲームの流れを見ていきましょう! まず今作には「行商人」と「露天商」といった2つの役職が存在します。 プレイ人数によってどの役職が何人いるのか決められているので、それに沿ってプレイヤーはゲーム開始時にどちらの役職を担当するかを決めます。そしてプレイヤーは山札から決められた枚数のカードを引き、初期手札とします。 手札が配られたのち、「露天商」のプレイヤーは自分がどの場所でゲームをプレイするかを決めます。これは露天商が自分のお店をその場所で開くことを意味しています。 そのため「露天商」はこの時決めた場所からゲーム中一切動くことが出来ません。また各「露天商」は離れた位置にいても構いませんし(遠すぎるとプレイが困難になりますが、立った状態でプレイしても構いません。全ての「露天商」が場所を決めたらゲームが始まります。 ゲームは主に前半戦と後半戦の2ラウンドで構成されます。 ラウンド開始時にタイマーをセットし、それが鳴るまでプレイヤーは何回でもカードの交換や交渉を行うことが出来ます。 ただ前述の通り、「露天商」はゲーム中動くことが出来ません。そのため交渉を持ちかけるのはもう1つの役職、「行商人」の仕事です。「行商人」は「露天商」と異なりゲーム中自由に歩くことが出来ます。実際に「露天商」のもとへ足を運び、交渉を行いましょう。 交渉では基本的に制約は無く、両者が合意すればどのような形でもカードを交換することができます。そして取引を終えたら、行商人は露天商のもとを離れ、また別の露天商へと足を運びます。 そう、この一連の流れは現実のバザールを限りなく再現しています プレイヤーは自分がバザールにいるかのような気分でゲームを楽しむことが出来るでしょう。 このような流れを2ラウンド行った後、自分の役職に応じた得点計算に移ります。 もしあなたが「行商人」ならば勝利点を得る方法は「セットコレクション」です。 商品カードにはそれぞれ何枚で何点になるのかが書かれているので、これに参照して勝利点を得ます。 例えば上の「⑮シルク」なら3枚で3点、5枚で5点、7枚で9点!といった感じ…… 全ての商品で点数化を行い、合計点が最終的なスコアになります! 対して役職が「露天商」なら勝利点を得る方法は「マジョリティ」になります。 ゲーム終了後、各「露天商」は特定の商品カードを何枚持っているかを比べ合い、その順位によって勝利点を得ます。 例えば上の「⑪ガラス」なら最も多く集めた人は6点、2位は3点といった感じ…… そのため「露天商」は出来る限り少ない枚数で1位や2位を狙うのが非常に重要になってきます。このマジョリティ勝負を全ての商品で行い、合計点が最終的なスコアになります。 そして得点計算において重要なルールがもう1つ! 「行商人」と「露天商」の目的は「同じ役職の中で一番勝利点を得ること」なのです。 つまり「行商人」と「露天商」という役職の異なるプレイヤー同士で勝敗がつくことはありません。それぞれの役職で一番多く勝利点を得たプレイヤー2人がゲームの勝者になります! 【⑤アピールポイント:役職によって生み出されるストレスのない交渉】 今作における重要なルールは「交渉は役職の異なるプレイヤーとしか行うことができない」、「プレイヤーは自分の役職の中で1位を獲ること目指す」という二つです。二つのゲームが同時に進行するかのようなこの奇妙な構造によって、今作は従来の「交渉ゲーム」が抱える問題を解決しようとしています。 従来の「交渉を用いるゲーム」において、交渉は基本的には「WIN-WIN」のアクションであることが多いです。この「自分と相手が互いに利益を得る」というのは交渉を発生させやすくするなどの効果がありますが、同時に問題を引き起こす原因にもなっていました。 例えば自分が負けている時は逆転するのが困難だったり、不用意な交渉によって自分の利益より相手が遥かに大きな利益を得ることになったり、その結果キングメイカーが発生したり。従来の「交渉ゲーム」ではそういった部分でゲームが壊れたりストレスが発生する可能性がありました。 そしてこれらの問題は「両者が互いに利益を得る」ことが原因ではなく、「交渉相手が倒すべき敵である」という部分にあると自分は考えました。 そこで今作『バザールの商人たち』では「行商人」と「露天商」という二つのゲームに分離することで問題の解決を試みています。 今作における交渉相手は「敵」ではありません。交渉の結果、相手が大きな徳をすることになってもあなたの勝敗には関係しないのです。このため従来の交渉ゲームにありがちな「相手が得するのをどう防ぐか」を考える必要はなく、交渉の楽しい部分だけをストレスなく味わえるようになっています。 これが今作の最大のアピールポイントです。 【⑥アピールポイント:ロールプレイによって高まる面白さ】 そしてもう1つのアピールポイントは「ロールプレイ」です。 「ロールプレイ」という言葉は「想像上のある役柄を演じること」という意味で、アナログゲームではTRPGやマーダーミステリーでよく使われています。 しかしこの「何かになりきる」という遊びは、ゲームだけに留まるものではありません。日常の中でも沢山の人たちがそれを楽しんでいます。 例えばディズニーランドなどのテーマパークで世界観を再現した建造物の中に入れば、まるで自分がその世界に迷い込んだ感覚になるでしょう。映画やアニメの舞台となった場所を巡る聖地巡礼は、これもまた自分がその作品の中にいるような気分を味わえます。有名人が食べているものと同じものを食べる時は、自然とその時の情景が頭に浮かび、より満足度が上がることもあるでしょう。 こういった事象だけでなく、「何かになりきる」という遊びは日常に根付いており、意識せずとも沢山の人がそれを楽しんでいます。 つまり「ロールプレイ」は、ゲーム的な楽しさとはまた異なり、普遍的な楽しさがあるのだと僕は考えています。 そしてこの「ロールプレイ」の楽しさをゲームに落とし込もうとするなら、デジタルゲームよりアナログゲームの方が向いているでしょう。何故なら「ロールプレイ」は行われる場所がより現実に近い方がより強い体験になるからです。 勿論「デジタルゲーム」でもロールプレイの楽しさにフォーカスしたものは多くあります。 しかしデジタルゲームは全てが画面の中で完結し一人で遊べるのに対して、アナログゲームは現実の世界で行われ誰かとプレイするのが一般的です。重要なのは「他人が同じ場にいる」という点で、アナログゲームではプレイヤーは自分がどうしたいかを考えるだけではなくそれを自分の口から相手に伝えなければいけません。 こういった自分の言葉で意思を示す、リソースを得るために実際に手を伸ばすといった部分は面倒臭さもありますが、ロールプレイの楽しむ上では非常に重要でしょう。 そこで今作『バザールの商人たち』では、このロールプレイの楽しさをより追及しようと考えました。空間の中にお店を模した「露天商」がいて、「行商人」が実際に歩いてそれを回るという構図により現実のバザールを限りなく再現しようとしています。 こういった要素はゲームの戦略的面白さを高めることはないでしょう。しかしこれにより「ロールプレイ」の楽しさがより強調され、体験としては強烈で面白いものになっているはずです。 またあくまで今作は「ロールプレイ」自体を楽しむというよりは、体験を向上させるスパイスとして用いています。ですからロールプレイを強要される、無理に演技をしなくてはいけないとか、そういうことは一切ありません。ルールに則って遊ぶだけで自然と「ロールプレイ」的な楽しさを味わえるといったつくりなので、「ロールプレイ」というものに苦手意識がある方にも遊びやすい作品です。 【⑦まとめ】 以上が新作『バザールの商人たち』の紹介でした。 冒頭に述べた通り、今作は4/27-28に開催される「ゲームマーケット2024春」にて販売されます。 場所は「土L-33:サイシュピール」ブースです。販売は土曜のみなので注意してください! 価格は1500円。それなりにお求めやすい価格です。 もしこの記事を読んで少しでも興味を持たれた方は是非足を運んでみてください!よろしくお願いします! それではここまでお読みいただきありがとうございました!
- 2024/4/16 4:17
- サイシュピール
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- 神田右京
- スタジオくるくるで活動中。 静岡県在住。 2021年 ホシノトレイン HOSHiNOTRAiN ジャンル:ファミリー向けバッティングすごろくゲーム 2020年 ゆびリンピック 子どもの本とおもちゃ 百町森から出版 2020年 ディスクッブ Diskubb ジャンル:木製おはじきアクションゲーム 2019年 くるリッチ Kururich ジャンル:記憶と探り合いのカードゲーム 2018年 FINGER OLYMPICs ゆびリンピックの海外版 Broadway Toys Limitedから出版 2017年 ゆびリンピックICE YubiLympicICE ジャンル:ジェスチャーゲーム 2017年 ゆびリンピック YubiLympic ジャンル:ジェスチャーゲーム 2016年 オクタゴン OCTAGON ジャンル:2人用ストラテジーゲーム
- 2021/11/4 22:01
- サイシュピール
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