サイシュピール @saispiel
合同サークルサイシュピールです。静岡を拠点とする、 スタジオくるくる(@StudioKurukuru) 輪骨舎(@lancelot_szok) Megaromatic game(@Megalomaniac_G)の3サークルで結成しています。
- デザイナーズノート『テキサスの流儀』
- 2025/5/3 13:02
この記事は【ゲームマーケット2025春】に発売される新作、『テキサスの流儀』のデザイナーズノートだ。

ゲームの簡単な紹介はこちらの記事で行っている。
https://gamemarket.jp/blog/192413
ゲーム内容を知っていた方がこの記事も楽しく読めると思うので、出来ればこちらを先に読んでおくことをお勧めする。
この記事は
【①テキサスホールデムのボードゲーム的解釈】
【②the Gang(ギャングポーカー)についての考察】
【③ゲームシステムとその意図】
という3部で構成されている。①と②に関しては『テキサスの流儀』と直接関係あるわけではないので、ゲームに興味が無い方も読んでくれると嬉しい。勿論最後まで読んでくれたら更に嬉しい。
さあ前置きはそのくらいにして早速本題に入ろう。

【①テキサスホールデムのボードゲーム的解釈】
今作の元ネタは明確に「テキサスホールデム」だ。
なのでゲームの解説に入る前に、「テキサスホールデム」というゲームの分析から始めることにする。
まず初めに言っておきたいのは「テキサスホールデム」というゲームが、面白い遊びであるのは間違いないということである。
運と実力が程よいバランスで調和されたゲーム性、初心者にはとっつきにくさもあるが、理解している人同士で遊べばとても面白いゲームである。これは単純にプレイヤー数が多くいることからも証明されていると言って問題ないだろう。
立場としては「麻雀」が近い。「麻雀」に対して「クソゲー」だという人はいるだろうが、やはりあれだけの人を虜にする魅力があるゲームではあるのだ。
ただこういった「テキサスホールデム」「麻雀」、あと加えるなら「TCG」などのプレイヤーが多くて人気のあるゲームの要素を、そのままボードゲームに落とし込もうとするの結構難しい。
何故なら「ボードゲーム」といった遊びと、「テキサスホールデム」などの遊びは、その性質がかなり異なるからだ。
「テキサスホールデム」「麻雀」「TCG」といった遊びの特徴は、プレイヤーはそのゲームを遊ぼうとして集まるということにある。
だからプレイヤーは(初心者向けのイベントを除いて)基本的に事前にルールを学んだうえで来る。「互いにルールを把握している」という前提があるからこそ、さらにそこから一歩進んだ駆け引きを楽しむ余地が生まれるのだ。
対して「ボードゲーム」という遊びを楽しむ人は、「同卓者と楽しい時間を過ごせること」を求めている。そしてそれが達成できるならどんなゲームであっても構わないのである。
基本的に「ボードゲーマー」は同じゲームを深く掘り下げて遊ぶというよりは、色んなゲームを遊ぶという人が多い。
必然的に多くのプレイヤーは、まずルールを知ることからゲームを遊ぶことになる。プレイヤーは「そのゲームに興味が無い」ところから始まると言ってもよい。
この遊びの性質の違いは、言ってしまえばそれだけだが、とても重要だと自分は考えている。
それがよく出ている例が「TCG」だ。「TCG」は全てのプレイヤーが基本的なルールやそれまで出たカードをある程度把握しているという前提のもとにカードの効果をデザインすることが出来る。だからこそ複雑なカード効果やコンボ、それを巡る駆け引きが許容される。
しかし似たようなことをボードゲームでやろうとするとどうだろうか?
プレイヤーは一からルールを覚える必要があり、そしてそれを他のプレイヤーにも覚えてもらう必要がある。
ほとんどの場合、作者が想定する駆け引きを楽しんで貰うところまでいくことはあまり無いだろう。何故ならそこまでのハードルは高く、何よりプレイヤーはそのゲームに元々興味が無く、代わりに遊ぶゲームはいくらでもあるからだ。
同人ボードゲームで「TCG」や「麻雀」ライクのゲームがあまりパッとしないのが多いのは(作者の経験値もあるが)、この遊びの性質の違いを軽視しているケースが多いように思う。

勿論今回題材に取り上げている「テキサスホールデム」もそういった性質の強いゲームである。
そのためまずは「テキサスホールデム」というゲームを「ボードゲーム」という目線で捉えた時に、どのような点が課題になるのかを述べていきたい。
【①-①:ゲーム時間が長い&不定である】
テキサスホールデムには「リングゲーム」と「トーナメント」という大きく2つの遊び方がある。この中でより「ボードゲーム」らしいルールは「トーナメント」の方であるのでこちらを取り上げる。
これは初めにいくつかの持ちチップが与えられ、これを互いに奪い合う。自分のチップが全て無くなるとゲームから脱落し、最後まで残ったプレイヤーが勝利する。いわゆるバトルロイヤル形式のゲームスタイルだ。(ちなみにリングゲームは好きなタイミングで個々がゲームを始めたり終えたり出来るルール)
これは個々の持ち金が有利不利に影響せず、フェアなゲームが楽しめる、「テキサスホールデム」のメジャーな遊び方と言える。
ただしこの遊び方は最初から最後まで遊ぼうとすると、とても時間がかかる。
誰か1人が脱落してもチップの総数が減るわけでは無いので、段々とテンポが良くなっていくわけでは無いし、そもそもプレイしている人数もそれなりに多かったりするので、まあ時間がかかる。
そして大体どのくらいで終わるかを予想するのも難しい。思ったより早く終わる時もあれば、その逆もあるだろう。一応時間によって最低のベット金額が上昇するなどゲームを収束させる仕掛けもあるのだが、いずれにせよ十分な時間を確保する必要はある。
ボードゲームでプレイ時間が長く、そしてどのくらいで終わるかが予想できないというのは、遊びにくいゲームという印象を与えてしまうだろう。
【①-②:脱落がある】
「テキサスホールデム」で自分のチップが全て無くなったプレイヤーは脱落するのだが、この「脱落」というシステムも問題になりやすい。
「テキサスホールデム」であれば脱落したプレイヤーは別のゲームに参加したり、お店でプレイしてるときは帰ったりすればよいのだろうが、ボードゲームでそれは難しい。
オープン会で遊んでいるならそれも可能だろうが、誰かの家やゲームカフェで集まって遊んでいるなら、終わるまでそのプレイヤーに待ってもらうしかない。待っている方も待たせている方も、多分それは気まずい時間になる。
実際現代のボードゲームで「脱落」のシステムはほとんど採用されることが無く、これが問題を抱えていることは何となく理解できるはずだ。
【①-③:得点を奪い合うゲームである】
「テキサスホールデム」では他人から得点を奪い・奪われるという形式だが、これもピーキーな展開を生みやすい要因だ。
両者が得点を稼ぐという形式に比べて、単純に奪った・奪われた側で点数の開きが大きくなりがちだ。ゲーム中盤でほとんど順位が決定してしまうという事態も発生しやすい。
またこのような形式は「誰かのミス」が「誰かの得点」に繋がる。そのためゲームに慣れていないプレイヤーが途中で大きなミスをして、それが勝敗を決定づけるということもよくあるだろう。もしそうなってしまえばそのプレイヤーにとってトラウマのような体験になってしまうだろうし、他のプレイヤーも見ていて気持ちの良いものではないはずだ。
【①-④:ゲーム毎の重要度を自分で決められる】
「ゲーム毎の重要度」、これはつまり「ベットの金額を自分である程度決めて良い」というルールのことである。
プレイヤーが多くのチップをベットすればその勝負の重要度は極めて高いものになるだろうし、逆にほとんどチップを賭けていない勝負は結果に影響しない。
この「勝てる時には強く勝て!」というシステムは良い面もある。単発の勝負で見たら運の要素が強い「ポーカー」だが、この「勝負の重要度を自分で決めて良い」というシステムのおかげで、ある程度運の要素が緩和され、実力が出やすいゲームになっている。更に言うなら「テキサスホールデム」とは長いゲームの中で、強く出れる勝負所を見極めるゲームと言えるだろう。
だが全員がその認識を持ってゲームをしているわけではない「ボードゲーム」においては良くない働きをしている部分もある。
1回の勝負に費やす時間は変わらないのに、あるゲームでは1点しか取れず、あるゲームでは100点取れるといった事態が発生するなら、前者のような勝負は徒労に感じてしまう。また慣れていないプレイヤーが「オールイン」といった極端なベットが出来る余地があるのも、ゲーム展開がピーキーなものになりやすいという問題に繋がっている。勿論全員が最初からそういうゲームであると理解した上で参加しているなら問題は無いのだが、先に述べた通りボードゲームという遊びでは難しく、不満が生まれやすいと言えるだろう。
【①-⑤:手札の推測に前提知識が必要である】
「テキサスホールデム」では相手の手札を推測することが非常に重要なのだが、これをするためには「テキサスホールデムの基礎知識」を知っていなければいけない。
それは「このタイミングでレイズするのはどのような意味を持つのか」「どういった初期手札が強いとされるのか」「なぜそのような考え方をするのか」といったもののことである。
勿論こういった前提知識が無くてもゲーム自体をプレイすることは出来るだろうが、知っている・知らないでは勝率だけでなく、ゲームを楽しめるかどうかにも影響する。例えばブラフを張る時にも、知らなければただ「レイズ」をすることしかできないが、前提知識があればより上手に嘘を吐くことも出来るはずだ。
またこういった「知識」がゲームの中で自然と身に着くかというと、中々そうではないのも難しい。最大限楽しむには、まず初めに理論を知り、実戦でそれを覚えていく必要がある。
この「前提知識」を把握しないとゲームが楽しみにくいというのは、インストから始まりがちなボードゲームとしてはマイナスポイントと言えるだろう。
【①-⑥:手札の強弱の理解・予想が難しい】
6つ目は手札の強弱に関する部分が、それなりに難解だということだ。
ゲーム紹介でも述べたが「最強になるように7枚から5枚のカードを選ぶ」という行為だけでも、初心者にとっては障壁になりかねない。
また実際のゲームでは、一度に全てのカードを見れるわけではなく、段階的にカードが公開される。カードが捲れるたびに自分の手札がどのように変化していくか、それを正確に理解・予想をするのはかなり難しい。
戦略の部分ではなく、基本的な進行の部分で躓いてしまう余地は出来ればない方が良いだろう。
【①-⑦:基本的には降りるゲームである】
「テキサスホールデム」において、1回の勝負で得点を得れるプレイヤーは1人だけだ。例えば7人で遊んでいる時、1人が勝者になり、他6人は敗者になる。
この時、他6人が取るべき最善の戦略は「早く降りる」ことだ。「テキサスホールデム」の1回の勝負では2位や3位といったものに価値はなく、1位になれないなら勝負から降りた方が良い。
これは単純計算ではあるが、7人でプレイしているなら7回に1回しか勝利できないわけで、毎回勝ちを狙うというのは無謀なのが分かるだろう。
実際全てのゲームに参加しようとしてしまうというのは初心者がやりがちなミスの1つである。
つまり「テキサスホールデム」ではほとんどの勝負で「降りる」ことが最善であり、そうした場合プレイヤーは何もしないで他のプレイヤーを待たねばならない。そして人数が増えれば増える程、勝率は低くなり、待ち時間は増える。
「勝者総取り」という構造がテキサスホールデム特有の戦略性を生み出しているのは間違いないが、「ダウンタイム」を発生させる要因になることも意識すべきだろう。
さあここまで「テキサスホールデム」をボードゲーム的に解釈したとき、課題となる点を7つ挙げさせてもらった。
こうして見ると、「テキサスホールデム」が嫌いなのか?と思われるような文章だが、もちろんそうではない。これらは「ボードゲーム」として見るなら確かに課題ではあるかもしれないが、最初に述べた「テキサスホールデム」の性質、「それを遊びたい人が集まる」という前提があるなら、これは問題にはならない。むしろこれらの要素はテキサスホールデムというゲームの奥深さに繋がっているはずだ。
しかし僕がやろうとしているのは、テキサスホールデムのボードゲーム化であり、そのためにはこの7つの課題を解決しなくてはならなかった。
【②分析:ギャングポーカー】
解決すべき課題を整理したところで、次は同じ「テキサスホールデム」をベースにしたボードゲームで、成功したものを取り上げたい。
それは「the Gang」。「ギャングポーカー」という名前で日本語版も発売予定の爆裂面白ゲームである。

前回のゲムマ2024秋にて先行発売され、何かと話題に上がることも多いので、知っている人も多いだろう。勿論自分もプレイしたがとても面白いゲームなので、やってない方は是非プレイしてみて欲しい。
この「ギャングポーカー」は「テキサスホールデム」をベースにしたボードゲームであり、その成功例である。
似たようなことをやろうとしている今作にとって、この話題の新作「ギャングポーカー」は無視できない存在だ。なのでまず「ギャングポーカー」の何が凄いと感じたのかを簡単に解説することにする。
『ギャングポーカー』が最も革新的な点は、「テキサスホールデム」から「得点」の要素を完全に削ぎ落したことにある。『ギャングポーカー』には個人の得点を示すような得点チップは存在しないし、そもそも全員で勝利を目指す協力ゲームだ。
これは確かにスマートな解決方法のようだ。実際先に述べた課題の多くは、得点と対戦という要素に紐づいている。ならばそれを削ってしまえば、多くの課題が解決するだろう。
このシンプルにして大胆な変更を、多くのポーカーライクゲームが実行できなかったのは、このような形式が「ポーカー」らしさに繋がってもいるからだ。「レイズ」や「フォールド」といったアクションを通した駆け引き、そしてそれに伴うブラフなどの要素は、確かに「ポーカー」の中核を成すもので、ポーカー」を参考にゲームを作ろうとするとき、これを切り捨てるのは中々難しい。
だが「ギャングポーカー」は「テキサスホールデム」の面白さの本質を「カードの捲れとベットの上昇から相手の手札を推測すること」にあると考え、それ以外の要素は別のもので置き換えることが可能だと結論づけたわけだ。この思い切りの良さと面白さの本質以外の部分を徹底的に削ぎ落す姿勢はとても素晴らしい。そしてそれはチャレンジングなだけでなく、上手く機能している。
「ギャングポーカー」では自分の手札が弱くてもそれが原因で負けることは無いし、「勝負から降りる」という要素も無くなったので待ち時間が発生することも無くなった。言ってしまえば「対戦」から「協力」という形式に変わっただけかもしれないが、それだけシンプルな変更点で多数の問題が解決しているのは本当に見事である。

【③ブッ倒せ!ギャングポーカー】
と、ここまで「ギャングポーカー」をべた褒めしていると、「ギャングポーカーがあるなら新作なんて必要ないんじゃない?」という声が聞こえてきそうだ。
確かに1人のプレイヤーとして『ギャングポーカー』を評価するだけなら爆裂面白ゲーム!とか言ってて問題ないのだが、製作者として見ると途端にこれは強大なライバルになる。勿論『ギャングポーカー』と『テキサスの流儀』は販売規模が恐ろしく違うため、ライバルというのはかなりおこがましいのだが、遊んでくれるプレイヤーにとっては同じ1つのゲームだ。向こうからは相手にされてはないだろうが、こちらとしては『ギャングポーカー』の存在は避けては通れないし、むしろこれをブッ倒すくらいの気持ちでいるべきだろう。
そしてもし『ギャングポーカー』が非の打ちどころのない完璧なゲームであったなら、僕は新作を出してないし、この記事を書くこともなかっただろう。でも実際そうはなってない。というわけで次は『ギャングポーカー』に依然として残る課題を取り上げ、活路を切り開いていくことにする。
『ギャングポーカー』は進行のルールを大きく作り替えた。そしてこれは素晴らしい変更点だった。
ただ対照的に「相手の手札を推測する」という部分はほとんどそのままの形でゲームに採用されている。つまり「手札」に関する課題は、解決されることなく、そっくりそのまま残っているのである。
『ギャングポーカー』では依然として相手の手札を推測するのに「前提知識」が必要ではあるし、手札の強弱が理解しにくいという問題を抱えている。(ブラフをする必要が無くなったので、多少分かりやすくなってはいるが)
さらに言えば「対戦」から「協力」に形式が変更されたため、「テキサスホールデム」では失敗しても自分が損するだけで済んでいたが「ギャングポーカー」では1人の失敗がチーム全体の失敗に繋がってしまう。「テキサスホールデム」に馴れていないプレイヤーにとってはより厳しいゲームになっているのである。
そもそも『ギャングポーカー』は「テキサスホールデムを短い時間で楽しめるゲーム」であるのは間違いないだろうが、「テキサスホールデム入門にうってつけ!」といったゲームでは無い。『ギャングポーカー』のターゲットは「テキサスホールデムを何も知らない初心者」ではなく、「ある程度テキサスホールデムを知っているプレイヤー」なのだと思う。(これは海外では日本より「テキサスホールデム」がよりメジャーな遊びであることが関係しているのかもしれない)
そしてもう1つの活路は『ギャングポーカー』が削ぎ落したもの、つまり「対戦」という形式や「得点チップのやり取り」といった要素の中にも、面白さや「ポーカー」らしさがあるということ。確かにゲーム進行の部分はボードゲーム的に見るなら良く出来たシステムとは言えないかもしれない。しかし「勝者総取り」や「ブラフ」といった部分がポーカー特有の面白さを生んでもいるのも事実だ。
『ギャングポーカー』が「対戦」から「協力」へ形式を組み替えたことは独自性に繋がっているのだが、「対戦」という形式を維持したまま問題を解決できるなら、また別の面白さを提供することが可能かもしれない。
これら2つの事柄から「初心者向けのテキサスホールデム」という切り口であれば、『ギャングポーカー』とは十分に差別化できそうだ。
「よりシンプルに、よりスピーディーに遊べるテキサスホールデム」というコンセプトを定めて、それを実現するために何が必要かを考えることにした。

【④面白さの本質の分析・分解・再構築】
さて、自分はこれまで3年ほど同人ボードゲームを作り続けてきた。その中で何となくわかってきたのは、何らかのゲームを参考にして新しいゲームを制作する時、その元ネタのゲームの「面白さの本質」がどこにあるのかを把握するのがとても重要だということだ。
例えば自分は「パチスロ」という遊びを元ネタにした『パチスロシミュレーター』というゲームを制作したことがある。この時「パチスロ」という遊びの本質を「当たりを引いてメダルを稼ぐこと」ではなく「データを集めて隠された設定を推測すること」だと捉えた。そしてその認識を軸にして、「パチスロ」という遊びを分解・再構築し『パチスロシミュレーター』というゲームが完成した。この時の自分の認識が正しいかどうかは一旦いい。人によっては別の部分が「面白さの本質」だと分析することもあるだろう。重要なのはそのゲームを自分の中でどう捉えるか。「面白さの本質」がどこにあるのかをしっかり認識していれば、それ以外の要素を自由に組み替えることも可能になるはずだ。
では「テキサスホールデム」というゲームの「面白さの本質」がどこにあると自分は考えたのか。
参考に「ギャングポーカー」では「場札の捲りとベットの上昇を通して、相手の手札を推測すること」だと捉えた。
そして自分は「現在価値・将来価値・掛け金の3つを天秤にかけること」だと考えた。
「テキサスホールデム」の手札には「現在価値」と「将来価値」の2つの価値がある。(この単語は自分が勝手に呼んでいるもので、もしかしたら専門的な用語が別にあるかもしれない)
「現在価値」は今見えている手札だけで判断した価値だ。今の時点で勝負になったらどの程度強いかということを示している。
「将来価値」は捲れるカードを考慮して将来的にどの程度価値があるかを示したものだ。「強くなる可能性」と言っても良い。
「テキサスホールデム」ではこの2つの価値が同時に存在する。例えば初手の2枚が同じランクであるなら、「現在価値」が高い手札と言える。対照的に今は何の役も出来ていないがあと1枚スペードが捲れれば「フラッシュ」になるといった手札は、「現在価値」が低く「将来価値」が高いと言えるだろう。
「テキサスホールデム」で面白いのは、この2つの価値の重要度が少しずつ変化していく点だ。
例えばゲーム初めの2枚しか配られていないとき、「将来価値」の重要度は高い。まだほとんどのカードが見えていないし、それによって如何様にも強さが変動するからだ。
しかしカードが捲れるたび、「将来価値」の重要度は減っていき、逆に「現在価値」の重要度はどんどん上がっていく。そして5枚目の場札が捲れた瞬間に「将来価値」は意味を無くし、「現在価値」だけで勝負が行われる。この2つの価値が段階的に移り変わっていくこと、そしてプレイヤーはそれを踏まえてベットを行わなければならない。
例えば「現在価値」が低く「将来価値」が高い手札の時、それが強くなることを信じて相手のレイズに応じるのか?もしくは「現状価値」が高い手札を信じて強気にベットするのか?場札によって手札の強さは常に変化していく。
その中で「現在価値・将来価値・掛け金の丁度良いバランスを見つける」のがテキサスホールデムの「面白さの本質」だと自分は考えた。
そしてその構造をシンプルに実装しようとしたのが、今作『テキサスの流儀』の「役アイコン」だ。

『テキサスの流儀』では新しいカードが手札に加わることは無いので、始めの2枚から一切変動することは無い。
しかし5枚の場札によって価値は大きく変動する。自分の手札に対応する役アイコンが出現すれば、そのプレイヤーの「現在価値」は大きくなるだろうし、自分とは関係のない役アイコンが登場すれば自分の手札の価値は相対的に低下するだろう。また役アイコンが場札に1枚も登場しなければ、「ノーハンドの時にどれだけ強いかという価値」が重要視されるようになる。逆に多数の役アイコンが登場した場合は「ノーハンドの時の強さ」という価値は重要度を失うことになる。
場札は段階的に公開され、その度に「現在価値」や「将来価値」は変化する。それを踏まえてレイズやフォールドを行うかという部分は、形を変えても「テキサスホールデム」の構造に非常に近いものになっている。
そして何よりのポイントは、シンプルで分かりやすいことだ。勿論手札の変化の多様性や戦略性といった部分は元のゲームには及ばない。しかしルール量や処理の複雑さで元の構造を実現出来ているなら、それはとても価値があるはずだ。

【⑤7つの課題の解決策】
『テキサスの流儀』において「役アイコン」は最も重要な要素であり、これを実装するに至った流れと狙いを解説できた時点で、このデザイナーズノートはほとんど役目を果たしている。他の調整は重要度からすればおまけみたいなものだ。
ただ初めに「テキサスホールデム」の7つの課題という大風呂敷を広げておいて、それをどのように解決しようとしたのかを示さないまま記事を終えるのは打ち切り漫画みたいで後味が悪い。
なのでこの項では初めに挙げた7つの課題を今作ではどう解決しようとしたのかをまとめようと思う。ゲーム紹介で紹介した部分と被るとこがあるので、簡潔に紹介する。
「①ゲーム時間が長い」&「②脱落がある」
解決策:ゲームを脱落式ではなく、ラウンド式にして勝負が何回行われるかを固定にした。ただし固定ラウンド制は負けたプレイヤーがそれを取り返そうとするので、ゲーム終了に近づくにつれて掛け金が吊り上がっていくという問題もあった。今作では特定のタイミングで得点のリセットさせることでこの問題をある程度解決させようとしている。(ただしラウンド最後の勝負では掛け金が吊り上がりがちで、完全に問題が解決されているわけではない)
「③得点を奪い合うゲームである』&「④ゲームの重要度を自分で決められる」
解決策:1回の勝負でベット出来る金額に上限値を定めた。具体的には下限値が「1」で、上限値が「5」である。このおかげで1回の勝負で大量に得点が移動することは無くなった。またもしそれが起きた場合でも定期的に「得点のリセット」が発生するためゲーム終了までそれを引きずる心配はない。
「⑤推測に事前知識が必要」&「⑥手札の強弱がわかりにくい」
解決策:役アイコンによって解決を試みた。非常に分かりやすくはなったが、相手の手札を推測する要素は減った。
「⑦基本的に降りるゲームである」
解決策:プレイ人数を4-5人に制限することで、プレイヤーが出来るだけゲームに参加できるようにした。理論上は6人以上でも問題なく遊ぶことは出来るだろうが、1人あたりの勝率やテンポを考慮して上限を5人に設定した。また3人プレイは2人のプレイヤーの間で得点が移動すると早々に勝敗が決定してしまう可能性があったので、最低プレイ人数は4人からにした。

【⑥1つの勝負を繰り返すという構造とテンポについて】
最後に触れておきたいのは、7つの課題とは関係ないが、ゲームのテンポについての話だ。
まず「ポーカー」というゲームは、手札が配られてから勝敗が着くまでの一連の勝負を何度も繰り返すという構造にある。これに近いものとしては「トリックテイキング」がある。トリックテイキングにおける1トリックはポーカーのものと違って非常に短いが、1つの勝負を繰り返すという点だけ見れば同じような構造だと言える。
そしてこれは忠告だが、もし「1つの勝負を繰り返す」という構造のゲームを作る際は、極限まで「テンポの良さ」に拘った方が良い。
何故ならこの一連の勝負の中で少しでもテンポが悪かったり、処理が難しい部分があったりすると、それが何度も繰り返され恐ろしくテンポの悪いゲームになってしまいがちだからだ。
考えてみて欲しい。トリックテイキングで1トリックを行う度に、例えば手札の交換などの面倒臭い処理が一々挟まるのだとしたら、テンポが悪くなってしょうが無い。(いやそういうゲーム結構ある)
どんなゲームであっても、テンポを意識することはとても大事だ。しかしこういった構造のゲームの場合は特に気を付けた方が良い。
今作でも勿論その部分には気を使っている。紹介記事でも解説した「同一ラウンド中は山札をシャッフルしない」というルールはその最たるものだが、他にもいくつかあるので紹介する。
『⑥-①:確率表』
今作には様々な状況で使える「確率表」が付属している。これには状況に応じた「役アイコン」の出現率や同じ役だった時の勝率など、様々な確率が記載されている。
正直これはゲームに絶対必要かと問われればそうではない。「役アイコン」の総数だけを記載しておくだけでもゲームとしては問題ないはずだ。しかし確率を正確に知りたいと考えるプレイヤーがいた場合、その度にゲームは停滞してしまう。この時間は他プレイヤーにとっては待ち時間であるし、計算をしているプレイヤーも楽しい時間とは言えない。人は考える余地があれば、それに思考リソースを割こうとする。実際にはそこまで影響がないことに対しても。
そういった事態は避けたかったので、初めからその時々の確率を公開し、考える余地を無くそうとした。ギャンブルをテーマにしたゲームでは、確率が見えすぎてしまうと逆に冷めるということもあるので万能な策ではないだろうが、今作においては上手くプレイヤーの思考負荷を減らし、テンポの良さに繋がっているはずだ。
『⑥-②:得点用紙』
今作では1回の勝負で得た・失った得点は得点用紙に記入を行うわけだが、この時それぞれのプレイヤーが専用の得点用紙を1枚ずつ持つというルールになっている。よくあるゲームでは代表者が得点用紙を所持し、まとめてそれぞれの得点を記入するという形を取ることが多い。今作がこのような形式を取っていないのは、これもテンポを良くするための工夫なのだ。
従来のゲームでは「①代表者が何点か聞く→②聞かれたプレイヤーが答える→③代表者が記入する」という流れを人数分繰り返すことになる。対して今作の形式ではそれぞれが「自分の得点を用紙に記入」すればそれで済む。全員が同時に記入を行うので他のプレイヤーを待っている時間も無い。これで削減されるのはわずかな時間だが、それでもテンポの向上に繋がっている。
ただこれは良いことばかりでもない。まず単純により多くの用紙とペンが必要になる為、制作コストは上がってしまっている。そして得点計算の回数がそもそも少ないゲーム(ゴーアウトなど)なら、コストに見合った恩恵は無いだろう。また最後に1回だけ得点計算があるようなゲームは、得点計算がサクッと終わり過ぎるのもかえって盛り上がりに欠けたりする。そのためどんなゲームにも採用出来るアイデアでは無いが、何回も得点計算を行う今作においては相性が良いはずだ。
これらの「テンポを良くする工夫」はもしかしたらやりすぎで、別に必要ないかもしれない。けれどそれほどまでに「1つのゲームの繰り返しという構造」と「テンポ」は問題になりやすいと考えていて、やりすぎなくらい気を遣うくらいがちょうどよいのだと思う。実際今作もこれらのおかげで「よりスピーディーに遊べるテキサスホールデム」を実現できているはずだ。是非ともこのミニマムな体験を味わってみて欲しい。
【⑦まとめ】
新作『テキサスの流儀』に関するデザイナーズノートは以上だ。

繰り返しになるが、このゲームは2025年5/3に開催される【ゲームマーケット2025春】にて販売予定だ。
価格は2500円。是非【土Q43-サイシュピール】ブースに遊びに来て欲しい!待ってるよ!
【⑧おまけと贖罪】
最後に1つ、ゲームとは直接関係ないが、述べておきたいことがある。
そもそもこのゲームの元ネタは何度も言っているように「テキサスホールデム」なのだが、制作を始めたきっかけは別のゲームにある。
それは「ばる倶楽部」さんというサークルの「掛け引きほーるでむ」というゲームだ。

「ばる倶楽部」さんは自分と同じ静岡在住のサークルで、よく「静岡テストプレイ会」という形でテストプレイを共に行っている。
『掛け引きほーるでむ』は名前からも読み取れるように、これも「テキサスホールデム」をベースにしたボードゲームだ。そして『テキサスの流儀』の制作を始める前からこの作品はテストプレイを重ねていて、自分もよくプレイさせてもらい感想を言い合っていた。そんな日々の中、感想を言うためにもやもやテキサスホールデムのことを考えていたら、「役アイコン」のアイデアを思い付いた。しかし従来の『掛け引きほーるでむ』の要素とは離れたアイデアであったため、もしこれを採用するなら別のゲームになってしまうだろうという確信があった。実際に「ばる倶楽部」さんにそのアイデアを共有したが、案の定実際に採用されることは無かった。
しかし自分としてはこの「役アイコン」のアイデアは中々面白く、捨てるのは勿体なかったので、「ばる倶楽部」さんに許可を取ったうえで、『テキサスの流儀』の制作を始めることにした。これが今作の経緯である。
ただシステムはかなり異なるし、本人に許可は取ったとはいえ、テストプレイしたものと同じコンセプトのゲームを後追いで作り始めるという普通にゲキヤバなことをしているのは事実である。これを許してくれた「ばる倶楽部」さんに最大限に感謝していることをここに記しておく。
そして件の『掛け引きほーるでむ』も自分とは別の切り口で「テキサスホールデムのシンプル化」に挑戦したゲームである。名古屋ボードゲーム楽市で先行販売され、ゲームマーケット2025春でも発売を予定している!単体で遊んでも、両者を比較しながら遊んでもきっと楽しいはずだ。この記事を読んで「テキサスホールデム」そのものに興味が出た人もそうでない人も是非チェックしてみて欲しい!(贖罪終わり)