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●アナログゲーム専門サイト「GamersFamily.jp」の出展部門です。 【25秋・新作01】『フリップエンジェル』:表は天使、裏は堕天使のカードを場に並べながら6枚集めて得点コンボを狙うタブロービルデング。 【25秋・新作02】『不思議の国の変なゴーアウト』:出した手札は勝利点だからたくさん出したいけれど早上がり順ボーナスも欲しいゴーアウト。 【25春・新作】『国会劇場』:マストフォローなのに数値勝ち!? 弱い数字も重ねて強数字を超えちゃう!? どれにも化けるスート!? 魑魅魍魎集う「国会」をトリックテイキングで楽しむ!

【土-M31】試遊◎『フリップエンジェル』デザイナーズ・ノート┃GamersFamily.jp
2025/11/18 18:26
ブログ

GamersFamily.jp のらぱんどらです。
2025ゲームマーケット秋新作『フリップエンジェル』のデザイナーズノートです。

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0)序

2025年7月の末日、らぱんどらは机に向かったまま、常備しているボードゲーム用ノートをじっと見つめて呆然としていた。
ページはいくつかのボードゲームのタイトルが記載されていたが、全て斜線が引かれ“ボツ”であることを示している。
残りの僅かのページ空白部分には意味の無い落書きが踊っている。
ゲムマ入稿までの日数はもうわずか‥‥‥。

1)ゲムマチャレンジ再び

春のゲームマーケットも終わり、そろそろ次の新作の〆に入らないと、色々タイトになり間に合わなくなる初夏。
この時期において、らぱんどらは迷走していたといっていい。
 1年ごしのアイデア(春は私としての新作は無かったので)の幾つかモックにして、数件の試遊会で試させてもらったのだが、評判が宜しくない‥‥‥というのは正しい表現ではない。ダメ出しにつぐダメ出しをもらったというのが事実である。
 当初はソロモンの指輪と72の悪魔をテーマにしたゲーム「シジル72」を出す予定であったのだが、(私のデザインとしては有りがちな)情報量が多くアイコン化しても煩雑で、プレイングも直観的でない、というのがその時点での評価であり、自己分析でもあった。
 悪魔を召喚する方法は2種類、悪魔を召喚する要素が2通りなのはシンプルなのだが、召喚コストが地水火風と4種類ありそれも悪魔のレベルが3段階あるため階層化されているのが、煩雑さに輪をかける。
 しかも苦労して呼び出したものの、召喚したコストに色々見合わないし、プレイングしても嬉しいわけではないが致命的だ。
(私の好きなゲーム「世界の七不思議(7 Wonders)」で、私が嫌う「青色戦術」と似た状況)
とにかく“煩雑”な上に、新しい“メカニクス”もない上に、(テーマとタイトルを鑑み最低でも)72枚のカードというコンポーネントを使うということもあり、企画自体も含めて暗礁に乗りかけていたといって良い。

 ともかく要素を減らさなければいけないの明白なのだが、それには大鉈が必要だ。
そこで目に入ったのが
ゲームマーケットチャレンジ2025のレギュレーション
30 枚のカードと厚紙チップのみで構成されたゲームである。
 ボードゲーム制作において、ついつい“足し算”をしてしまし、ルール的にもガラパゴス化して傾向があり、有効な対策が無い私にとって、レギュレーションは枷にはならない。
むしろ道標になるのではと考え、リスタートすることとした。
 思えば私たちのゲームマーケット初出展もゲムチャレ規格だったわけで、初心忘れるべからず(というほどデザインレベルが高くなったわけではないが)。

 これが今回の「フリップエンジェル」最大の分岐点だったのはいうまでもありません。

2)フリップ!

 初期のソロモン(ゴエティア)72の悪魔というのは物理的に不可能となったので召喚できる悪魔は20~30体となり、それぞれ天使と悪魔12~13体の中から4体を召喚、それを平方に4枚配置するセットコレクションにするというラインはあっさり決まった。
 まずモックで天使と悪魔のカードを使い、召喚のメカニクスがうまく機能するか調べていた時、ふと
「表を天使、裏を堕天使とするのはどうか」
とのアイデアを思いつく。
メカニクス大全のカードの項目にもないこの
「カードをめくる(フリップする)」メカニクスを使用しているものは
「ペンギンフリップ」、「キャプテン・フリップ」(どちらもタイル反転)
で名称的には「フリップ7」効能的には「ウノ フリップ 」がある位であり
他にないメカニクスであること、そしてテーマである「天使-堕天使」とのシナジーも良いということで、“表裏が入替る”をメインメカニクスとすることとした。この時点で光と闇がメインとなるので、初期のソロモンの72の悪魔→キリスト世界の天使・堕天使と方向性がまさに“フリップ”した瞬間であった。

3)昼夜反転

 先刻の段階で、このゲームの“基礎設計”部分はほぼできたといって良かった。
  ・コストが低い面で召喚し、裏返しVPの高いコスト面を出す。
  ・初期は召喚のコストを削減し、後半はVP化するカードに変化する。
などなど。
 カードの表裏でコンボ要素を設定することで、フリップ(ゲームでは昼夜反転)することの意義と、なによりジレンマと面白さを表現できる。
問題は、この自分で“面白い”と思っているシステムとプレイングが、
他者にも面白いと思ってもらえるかどうかという箇所である。
 実際このゲームのプロトタイプ(今では全くの別ゲームであるが)「シジル72」も自分では面白いと思ってもちこんだのだが、テストプレイ会での評判はイマイチ所が、ダメ出しオンパレードであった。
 いつもお世話になっているテストプレイ会‥‥‥
 鶴見テストプレイ会(こげこげ堂本舗)、向ヶ丘遊園ボードゲーム会(植民地戦争+α)にもちこんだ所、
思いの他(なによりトラウマがあるので‥‥‥)評判が良かったのが後押しとなり、
ようやく自分の中でも自信ができ、心中でも昼夜が逆転した状態となった。

4)テストプレイ300

 ここまでくればあとはテストプレイとブラッシュアップを繰り返すのみである。
フリップエンジェル」はソロ(スコアアタック)ができる基本仕様なので、ソロプレイ(多分300回超え)で、基本的なバグとりとレアケースの算出、バランス取りなどは発見、補正ができる。
 テストプレイも、できるだけ多くのサークルのテストプレイ会に参加させて頂き、貴重な意見と体験をさせて頂いた。
 基本的な天使のレーティングは変化していないものの、
大きなルールとしては‥‥‥
  ・天使能力の追加と見直し(天使価値の向上)
  ・フリップ時でも天使能力の発動(フリップテーマの向上)
  ・4枚配置時点でも強制昼夜反転(ゲーム進行のメリハリとして)
  ・4枚配置→6枚配置に変更(プレイング時間延長の為)
などが変更された箇所である。
特に最後の6枚配置は
「せっかく面白いのに4枚配置では短すぎてもったいない」
と嬉しいコメントを受けた上でのことであり、最大のはげみとなっています。
また天使能力の追加には、2枚ある最強カードにお邪魔機能が追加され、テーマに沿ったジレンマが表現されており、(これもアドバイスを受けたものですが)なるほどと唸ったものです。

5)天使と悪魔その1

 このゲームの完成に多大な恩恵を与えたくれたテストプレイヤーへのわずかばかりのお返しということで、幾つかの天使は、そのテストプレイヤーの“お気に入り”の天使が追加(差し替え)しています。
 誰もがしるルシファー(サタン)や4大天使に4大悪魔以外を指定される方が多い中、若干マイナー感じのあるアモンやイスラフェル推しの声が反映されているわけです。
 私自身には、天使と悪魔に拘り(推し)はないのですが、
長年TRPGでプレイングしてきたD&D世界では悪魔世界のNo.2であるメフィストフェレスは外せない!ということで、小物ですが1枠を使っております。
 また
「メタトロンは堕天しない!」
と強く(熱く)コメントされたことを受け、双子の天使サンダルフォンを堕天使バージョンとして採用しております。

6)天使と悪魔その2

 このゲームの推しポイントであるフリップはイラストにも反映されています。
ゲムマチャレンジ企画のため本来は30枚が限界の天使イラストが、実は表裏で52天使/堕天使となっている点です。
イラストとアートワーク担当の風水鳥 このヱさんの力作の仕上がり。
私からの依頼事項は
「タロットカードを催した、ギリシャ正教のステンドグラス風」
に加えて参考資料として渡したリスト(参照URLと参照画像とガイドライン)。
これに
参考図書
  #天使 (Truth in Fantasy 17)
  #堕天使―悪魔たちのプロフィール (Truth in Fantasy 18)
  #「天使」と「悪魔」がよくわかる本(PHB文庫)
を見入り集中して、下絵をデザインし黙々と描いていく。
「バエルはどんなイメージ」
「アンドロマリウスとは?」
と質疑応答が続き、イメージがまとまると、クリーンアップしていく。
この繰り返しが続き、都合26枚、実際は表裏で微妙に違うので事実上、合計52枚の完全スクラッチ作品に!
(最後の天使アンドロマリウスのデザイン=昼夜反転をイメージする『フリップエンジェル』の箱絵の表紙を含め、全てこのヱさんのイメージに基づくものです)
「神は細部に宿る」
はドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉ですが、まさにそれを具現・具象化するような仕上がりとなりました。

※風水鳥 "Arty” このヱ 注: 実際はこんな順調にイラストが仕上がったわけではなかった。

7)ゲムマチャレンジの意義

“ゲムマチャレンジとはゲームマーケットに出展したいと考えている新規出展者を支援するため様々な企画”
と事務局の具体的な支援企画の一つだと私どもも考えています。
 ゲームの多様化に併せ、ポジティブ、ネガティブの意見もあると思いますが、
私個人の感想としては
「或るデザイナーにとっては“縛り”を設定することで、逆に収束化し、良いゲームができる」
示唆を与えて下ったことに、感謝しております。
 また印刷所も企画に協力したパックを出していただき至れり尽くせりで、大変心強く、助かりました。
 この場を借りて改めて感謝とお礼をさせて頂きたく思います。
ありがとうございました。

8)終わりに

等々の経緯を経て「フリップエンジェル」は完成し、無事秋のゲムマで販売となりました。
たった6枚のカードを置くだけのゲームなのですが、
“脳みそをフル回転”する中流級ゲームと仕上がっております。

デザインした私自身よりも、このゲームを理解されうまく紹介してくださっている植民地戦争+αさんの紹介記事へのリンクはコチラ

ぜひ手に取って“フリップ”していただければ幸いです。

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