スタジオ・カヤノナカ @huyu_kaya
「百合」をテーマの中心に据え、キャラクター・世界観に拘ったゲームを製作していきます。
- しばらくゲムマから距離を置きます
- 2025/5/20 21:06
5/17、ゲームマーケット2025春に出展致しました。
これ自体に対する振り返りはこちらです。まあいつも通りの悲喜交々です。
なのですが、その2日前、私は「今回を区切りにしばらくゲムマから距離を置きます」とポストしました。
このブログでは、私がそう決めた理由を書きます。
そも、現状のゲームマーケットという場は多くの問題を抱えています。
趣味の同人活動といえ、場に要求されている(ように感じられてしまう)クオリティの水準がどんどん上がっていっていること。
出展者にとっては「事前の宣伝の成果確認の場」、一般参加者にとっては「事前に決めた作品を受け取りに行く場」といった様相を呈しつつあること。
”前夜”に行われる特定のイベントが、知名度の向上に関して極端に大きな影響力を持ってしまっていること。
しかしこれらは、運営や参加者、周辺の関係者が各々のできることを行い、少しずつ改善していけばよいと思いますし、ある程度仕方ないものとして受け入れ適応していくしかないとも私は思います。
私が言いたいのは、無断生成AIに関することです。
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このnoteの内容は「無断生成AIは断じて使用すべきでないもの」という認識を前提として書かれています。
この前提がピンとこない方は、まず↓に目を通して頂き、更に調べてみて頂ければと思います。
個人的な好き嫌いという感情だけで言っているわけでは決してない、ということを理解して頂きたいです。
(もちろん感情としても嫌いですがね)
私自身、書いている途中だったこの文章を自虐的に「お気持ちnote」と呼んでしまいましたが、お気持ちとか学級会とかいった言葉で茶化されるべき問題ではありません。
以後、この文中で「生成AI」と言う時には「無断生成AI」を指します。生成に必要な学習データについて、「無断転載や海賊版で賄っている」「著作物などの権利者に無断でそれらを使っている」といった問題を抱えるもののことです。GrokやChatGPTもこれに含まれますし、adobe fireflyにも疑念の目が向けられています。OpenAIが著作権侵害などのかどで、世界中で幾つの訴訟を抱えているかご存じですか?
(こういうことを言うと、生成AIを擁護する人間はすぐ「合法」という言葉を使います。ですが、倫理が先にあり、その後ろに法が成立します。脱法ドラッグは、工場から出た廃液を川に垂れ流すことは、女性に参政権などを与えないことは、他国を侵略して人間を物品の如く売買することは、「合法だから許される」ことでしたか?)
そして一方で学習データの透明性などを検証・認定する機関があり、それに認められた生成AIというものも存在しています。それならいくらでも使っていい、という単純な話だとも思っていませんが、今回はひとまずひっこめておきます。
・・・
同人ボードゲーム界隈の生成AIに対する意識の低さは、本当に惨憺たる有様だと感じます。ベテランから新規の方まで、あまりにも軽率に生成AIを使用して憚らず、「いやぁ便利っすよね、仕方ないっすよね」とヘラヘラしている。
個人的には、最近はヨドバシカメラやイエローサブマリンのボドゲコーナーに立ち寄ることすら嫌になりつつあります。
尤も、使いたくなる気持ち自体は理解できるんですよ。印刷代やコンポーネント代は気を抜けばすぐ膨れ上がり、見た目が一定水準に達していないとなかなか気に留めてももらえない。廉価で出店できるチャック横丁も、ノスタルジーでしかないという意見の方が的を射ているように感じます。そんな現状の中で、手軽に「それっぽく」できる生成AIは魅力的に映ることでしょう。
私自身、第一作『Lingage』の制作中は、まだ生成AIの問題を認識していなかったので、利用を少し考えていました(し、結局利用しなかった理由も生成AIの諸問題とは少しずれたところにありました)。
そしてまた、少しでも疑念を持ったり、反対を表明する人の声に触れたりしなければ、こんな問題を抱えているツールだと知ることもできないでしょう。それも無理からぬ話です。一般的なマスメディアにもほとんど載りませんし、ボドゲ畑の人間はほとんど誰もこんな話をしていませんから。
(この問題にきちんと目を向け、スタンスを表明している方もいらっしゃるのは存じています。また私が知っているところだと、即売会「さっぽろ卓ゲっと」の募集要項や、SUSABI GAMES『アイドルアライブ』のイラスト募集イベントにおける要項で、生成AIへの言及がありました。Vtuverきたこしさんも、以前この問題について考える配信をされていましたね)
歴の長い制作者の方、インフルエンサーの方やイラスト・デザインを手掛ける方などは、多くの人との関わりこそが大切なものですから、なかなか波風立てるようなことをしづらい立場でもあるでしょう。
新参で若造の私には、この界隈において失うものが大してありませんから、こうした文章の公開にも踏み切れるというだけです。
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ボドゲ界最大のイベントであるゲムマと、それに関連する試遊会などのイベントには、悪いものもまた濃く収斂してきます。私にとってそれは生成AIに関することでした。
あからさまにAI生成物をそのまま貼っただけのゲームに対して寄せられる「ビジュアルも素敵!」などといった感想。
インフルエンサーの方が、生成AI使用作品とそうでない作品とを同等に、まぜこぜに扱うさま。
試遊会に出た時、その場の卓形成の流れで生成AI使用作品に触れることになったら、それをニコニコしながら褒めなきゃいけないのか、と戦々恐々としたものです。
AI生成物を何でもないように褒めている方が、全く問題と思っていないのか、知っていつつ素知らぬ顔をしているなのか、実は歯を食いしばっているのか……人間不信、と言うと大袈裟ですが、この問題についてほとんど孤立無援といった心地にもなりました。
……しかし、それでも私は、ここまでならまだ耐えられたんです。
私は私が正しいと思うあり方を貫いてここに立っていればいい、と思っていました。
決定打となったのは、ゲームマーケット公式Xのこのポストです。
https://x.com/GameMarket_/status/1922572546433577229
私の勘違いであればもちろん謝罪しますが、この子供のイラスト、AI生成物ではありませんか?
いかにも最近そっちの方でよく見る画風、というのもありますし、文字で隠れていますが(はっきり言って、わざと隠したんだろうと思っていますが)、ダイスが「溶けて」います。
(念のため言っておきますが、ここに紹介されているボドゲカフェのことは責めていません。責める理由がありません。とんだとばっちりですよね)
運営が生成AIの問題に対して何の関心もないということは薄々伝わってきていましたが、それでも「参加者が使うのをスルーする」のと「運営自らが使う」のとではまるで意味合いが違うでしょう。
このポストを以て、ゲムマに対する忌避感が閾値を超えました。
よってしばらくの間、ゲームマーケットへの出展を見送ります。
「しばらく」というのは曖昧な言い方で、そもそも半年に一度のイベントですから、2回もスルーすれば十分「しばらく離れた」と言えそうな気もします。なので少なくとも25秋には出ません。26春も恐らく出ません。その間は他の即売会に出ます。
(「他の即売会に出ます」という、その選択肢を持っていること自体が関東民の特権である、というのは御尤もです。私がもしもっと遠方に住んでいれば、溜め息をつきながらゲムマに出るしかないのでしょう。しかしせめて、持っている権利なら捨て置くより使った方がいいでしょう)
ボードゲームじたいは楽しいし好きですし、同人ボドゲの何と言うか”異形”の輝きに心惹かれる想いが消えたわけでもありませんので、一般参加はすると思いますが……
制作者の皆様へ。
どうか生成AIを使わないでください。
もう使ってしまったという方は、せめてそれを限りに手を引いて下さい。
(じゃあどうすればいいんだ、という話ですが、これも以前私が書いたnoteが参考になれば幸いです)
(宣伝とか売名とか思わないで下さいね。こんな話題を投げかけて、疎まれる・嫌われるリスクの方がきっと大きいんですから)
そしてゲムマをはじめとして、規模に拘らずすべての即売会・イベントの主催・運営様へ。
キービジュアルなどにおいて生成AIを使用しないこと、そして生成AI出力物に対する何らかの方針を示すことを強く求めます。
使用禁止とする、非推奨とする、ゾーニングとする……難しいなら、応募規約の中でほんの一言注意喚起をしてくれるだけでもいいんです。推奨したいならそれでも構いません、きっと「同好の士」が集まってくれることでしょう。
ただ、確かに存在している問題を無視しないでください。
最後にもう一度言います。これは、お気持ちとか学級会とかいった言葉で茶化されるべき問題ではありません。
ボドゲ制作を始めてから、楽しいことや嬉しいこともたくさんありました。尊敬できる人との出会いも幾つもありました。だからこそ、こんなことでこの場所を嫌いになりたくありません。この問題に目を向けてくれる人が一人でも増えてくれることを願います。
冬藤彁也/スタジオ・カヤノナカ